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繋いだ手

 いよいよサークルの一大イベントであるサマーキャンプへとやってきた。  本当に大掛かりで貸切バスを出して総勢30人ほどの参加者が施設を貸し切ってのキャンプをする。  もちろん貸切ということで、大学の仲間以外いないわけだけど、学校で実際に保管されている大型テントを八棟ほど張り、決められたテントに自分たちの寝床を確保していく。  直之と渉は、先輩たちに声を掛けられて部長と副部長が一緒のテントの中に隣同士で寝袋をセットした。  部長も副部長も面倒だなって思うことはあるけど、決して悪い人たちではないし、それなりに良くしてくれる。 「じゃあ、男性陣は火起こしして、女性陣は材料切りをお願いしてもいいかー?」 「はーい」 「いいっすよ」  部長の掛け声にそれぞれが返事をすると、自然とそれぞれが動き始める。二人も慣れないながらに先輩たちに教えて貰いながらBBQコンロに墨を入れてバーナーで火をつけている横で団扇を振ったりしていた。 「よし、点いた」 「おおー」  パチパチと音を立てて墨が燃えている。久々の感覚に、ちょっとテンションが上がっていた。  いい感じで火がセットできたところで、切ってくれた野菜やそれぞれが持ち寄った肉やウィンナーなどを焼き始めていく。 「よし、じゃあまずは可愛い後輩たちに上手い肉をたくさん食ってもらってから、焼き番変わってもらうかな」 「もちろん、変わりますよ」 「よーし、じゃあたらふく食え」  部長の中島さんが、お皿いっぱいに焼きたての肉を乗せて二人の前に差し出してくる。 「これはもうタレがついてるから、そのままでもいける!」 「ありがとうございます。いただきます」  差し出されたお皿を受け取ると、直之と渉は近くにあるテーブルに向かい合わせに座り、自分たちで買ってきた食器セットを用意して、食べる分だけお皿へと取り分ける。 「うわっ、めちゃうまっ」 「ほんとだ……美味しい」 「たまにはこういうのもいいな」 「そうだね」  思っていた以上に肉も野菜も美味しくて、結構がっつりと食べてしまっていた。渉も、それなりに美味しそうに口をもぐもぐさせている。時々目が合えば「美味いね」なんて口ぱくしながら、お互いに頷いたりしていた。 「あーっ、お腹いっぱい。まじで美味かったわー」 「うん、美味しかった」  お腹いっぱいでぷくりと膨らんでいるそこを軽く擦りながら言うと、くすりと口許を緩めながら渉が答えてくる。  そんな二人に、先輩たちからの激励が飛んでくるとは思ってもいなかった―― 「よし、じゃあ腹もいっぱいになったことだし、次はお前らが焼き番ね」 「えっ、食べたばっかで?」 「そりゃそうだろ。変われ」 「マジかぁ……」  休む暇を与えられることなく、軍手とトングを差し出され、仕方なくそれを受け取ると、それぞれ立ち上がり、肉を焼き始めた。  その作業は、長々と続くことになる。  お酒も入っている先輩たちは、気分良く楽しそうに話していて、そこから少し離れた場所でひたすら肉や野菜を焼いていく。 「いつまで続くんだろうな……」 「疲れた?」 「ずっと立ちっぱだし。いい加減、座りたい」 「だね」 「でも、まだまだ盛り上がってるし、そんなこと言ってらんないよな」 「そういうとこ、真面目だよね……」 「えっ?」  もう一度周りを見渡しながら、楽しそうに盛り上がっているのを目の当たりにすると、せっかくの空気を壊すわけにもいかず、一度トングを置いて張り出したふくらはぎをバシバシと叩く。  そして再びトングを手に持とうとした瞬間――直之の腕が誰かによって掴まれた。 「中島さん、僕たちちょっと休憩してきてもいいですか?」 「おい、渉……」 「すぐ戻ってくるんで」  いつもはこんな積極的に行動することのない渉が、しっかりと直之の腕を掴んだまま部長と話をしている。  驚きのあまり何も言えずにその様子を見守っていた。 「ああ、もうそろそろお腹もいっぱいになってきたし、いいぞ」 「ありがとうございます」  案外あっさりと受け入れられて、正直ほっとした。腕を引かれながら、BBQ広場から少し離れた場所へと移動すると、そこにあったベンチに座らされる。 「足、痛いんでしょ?」 「なんで……?」 「いいから、ほらっ」  直之の足を自分へと引き寄せ、渉がふくらはぎをマッサージし始めた。咄嗟に足を引っ込めようとするけれど、意外と力強くそれを阻止される。 「ああいう時、空気読んでしんどくてもしんどいって言わないよね」 「別に、そんなこと……」 「こんなに足パンパンなのに?」 「これくらい別に……」 「今日だって、僕のために参加してくれたんでしょ? 別に来たくもなかっただろうに……」 「だから、違うって……。渉が参加するなら俺もってだけ」 「うん……ありがと。でも、しんどいならしんどいって言ってよ。僕は直之と来るの楽しみにしてたんだから」 「悪かった。マッサージ、さんきゅ」  何となく自分の見えない部分を言い当てられてむず痒いのを隠すようにお礼を言った直之に、渉が静かに首を縦に動かすと、直之はそこから見える街の景色へと視線を向けた。

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