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豹変した弟

物心ついた時から俺の家族は母親しかいなくて 女手ひとつで、働きながら家事や育児をして どんどん痩せていく母の背中が 今だに瞼の裏に焼きついている。 ただ、そんな母が俺が中学に上がるときに 嬉しそうに「お父さんが出来るかもしれない」と 俺に報告してきた。 正直、家族は母だけで十分だったけれど 子供ながら、父がいたら 母の負担も少しは減るのではないかと 俺はそんな母に「よかったじゃん」と言った。 その数日後に母は、新しく父となる男性と その1人息子だという少年を連れてきた。 その息子は俺と同級生だったが、 俺の方が誕生日が早かったため、 双子の兄になった。 一人っ子で寂しかった俺は 同い年でも兄弟という存在ができて、 正直、父よりも弟の方が嬉しかった。 最初は人見知りな弟だったけれど 根気強く、登下校を一緒にしようと誘ったり 共働きの両親に代わって世話を焼いたり 遊びに誘ったりしたら なんとか懐いてくれた。 高校は、俺は自分の行きたいところを選択したが 弟は「一緒のところがいい」と 本来ならばずっと上の偏差値のところへ行けるのに俺と同じ高校に進学した。 それまではずっと仲がいいと思っていたし 近所の人やクラスメイトも 「本当に仲がいいね」「羨ましい」なんて 言ってくれるくらいだった。 ところが、大学進学のときに 俺は弟が兄に依存してばかりでは この先まずいのではないかと突き放した。 途端に、弟が豹変した。 弟に行くと伝えていた大学を変更して 他県の大学に合格し、進学する予定だと知った彼は、大暴れし、第一志望を蹴って 滑り止めで受けていたFランの 俺の大学と同じ県のよく分からない大学への進学することにした。 俺は反対したけれど、弟があまりに暴れるので 夢だった一人暮らしを断念して 弟とルームシェアをすることになった。 正直、彼の暴れようは本当に異常で 同じ部屋に住むなんて嫌だったけれど あまりに駄々をこねるので 両親から「なんとか」と説得された。 苦労をかけてきた母に その母を救ってくれた父から お願いをされると俺には断ることができない。 もしも、俺に危害を加えたら すぐにでもルームシェアを解消し 弟を連れ戻す、という約束の元、 この春から俺たちは親の目を離れて 二人暮らしをすることになった。

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