2 / 58

1日目の朝

「おはよう。今日から大学生だね」 「…、おはよう。志貴(シキ)、寝る部屋は別々にしようって言ったよな? なんで俺の部屋にいる?」   入学式の朝、初めて夜を明かした 新しい俺の部屋のベッドに 朝起きると弟の志貴が寝そべっていた。 「…、父さんも母さんもいないから寂しかったんだもん」 出会った頃は俺よりも少し小さかったのに 高校くらいから志貴の身長はみるみる伸びて あっという間に俺に10cmも差をつけた。 そんな大男の「〜だもん」が可愛いわけがない。 「中学からそもそも俺らはそれぞれの部屋で寝ていただろう。 寂しいもくそもない。 明日も俺の布団にいたら両親に連絡する」 「…、優聖(ユウセイ)はなんでそんなに俺に冷たいの?嫌いになった?」 しゅんとする弟の姿に流石に俺も心が痛んだ。 それでも、身長を180を超える大男がまた 暴れでもしたら俺だって無事じゃない。 鍵、付けてもらおうかな… 「嫌いじゃないよ。今も昔も、志貴は俺の大切な弟だよ」 「弟…、ね」 「そう。もうお互い18歳なんだからさ 2人で同じベッドで寝るなんておかしいだろ」 「…」 最近、志貴は都合が悪いとだんまりを決め込む。 昔は素直で聞き分けのいい子だったのにな。 まあ、もうその時の面影もないけれど。 「ほら、入学式、遅れるぞ。 志貴のほうが少し遠いんだから早めに出ないと」 「うん」 志貴は渋々、俺の布団から出る。 しかし、血が繋がってないから仕方ないのかもしれないけれど、 身長といい、頭脳といい、顔といい… 志貴は俺の弟なんて思えないくらいに スペックがかなりいい。 高校からもそうだったけど、大学でも 女の子が放っておいてくれないだろう。 高校の時は俺にべったりで 「優聖がいるから、彼女はいらない」 と公言しており、 俺は女の子たちからのブーイングが怖かった。 ただ、大学は違う。 そろそろ、俺から離れて志貴ものびのびと生活してくれるだろう。 俺だって、流石に彼女くらい欲しい。 っていうか、志貴のせいで ことごとく女の子からは敵視されていたから デートはおろか、会話すらまともにしてなかった。 お互い、兄弟という呪縛から解放されて 大学生ライフを満喫できたらいいな、と この時の俺は弟の恐ろしい思想も知らず 呑気に考えていた。

ともだちにシェアしよう!