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復讐だったのか
「お、優聖!久しぶり」
「冴木、久しぶりだな。
こんなに早く再開するとはな」
「いや、同じ学部だから当たり前だろ。
でも、まあ、新生活感は薄れるな」
「お互い様だわ」と、どつきあいながら
初めて授業を受けるために講義室へ向かう。
冴木はこの大学で唯一、同じ高校出身だ。
地元から離れた大学を選んだので
1人いただけでも奇跡みたいなものだ。
しかも、学部も同じ。
だから、大学生活への緊張は
それほど感じずに済んだ。
「なんかさ、お前の隣に弟がいないのが
新鮮だな」
「え?あ、志貴か…
まあ、アパートに帰ればいるけど」
「は?違う大学にしたんじゃないの?」
「いや、そうなんだけどさ
実は言っていた学校と別のところに行くって
言ったら暴れてさ…
滑り止めで受けてた同じ県の大学に行くことにしたみたいなんだよな」
「え、マジ?」
冴木はドン引き、と言う目をしている。
「いや、まあ、悪い子じゃないんだ。
それにここには来ないから安心して」
「お前に言うか悩んでたんだけどさ…」
そう言って冴木は言いづらそうに切り出した。
実は、冴木とその友達は高校時代に
あまりに志貴か俺にべったりだから
「そろそろ兄離れすれば?」と言ったらしい。
すると志貴はすごい怖い顔をして
「優聖が俺を差し置いて幸せになるのは許せない」と言ったとのこと。
「口止めされてたんだけどさ、
優聖があいつに人生壊されたらと思うと心配で…」と、冴木がまだ話していたが
俺は頭をガツンと殴られたみたいな衝撃を受けた。
志貴は、俺を兄や家族だなんて
思っていなかったのか…?
俺なりに、兄弟らしく接してきたつもりだった。
俺のどこが気に食わなかったのか分からないけれど、志貴にとって俺は、志望校を変えてまで復習をしたい相手だったのか?
「優聖?」
冴木に肩を揺さぶられて
ようやくハッとする。
「だからさ、あんなやつに構わないで
これからは優聖の人生を謳歌しろよ」
「あ、ああ。ありがとう」
まるで家族を失ったように…、
いや、それ以上に悲しみが溢れる。
なるべく、志貴を避けて生きよう。
志貴は俺に復讐したいだろうけど
弟にそんなことをさせるわけにはいかない。
つまりは、彼を避けることが
俺には最善の策に思える。
とにかく、バイトにサークルに
詰めるだけ詰めて、
家には帰らないようにしよう。
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