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最終話

 「日本では一般的にラベンダーと呼ばれて るけど、ラワンデルと言うところもあるんだ よ」  意識が揺りかごのように定まらず、ぼんやりとしていると和音の声に意識が戻ってくる。  「でも親父が気に食わなかったのか知らないけど、ラウンデルと変えてそれがあの黒猫になったんだ」  どうしてラベンダーなのか知らないけどね、と和音は笑った。  「そうなのか」  「で、白猫はバラの英語をもじってローザ。この二匹はコンパニオンプランツなんだよ」  「こんぱ……なんだそれ」  「コンパニオンプランツ。野菜やハーブを組み合わせて一緒に植えると成長できたり美味しくなったりする植物のことを言うんだよ」  「難しいことを話しはじめるな」  ピロートークとしてはどうなんだろうか。  もっと愛を囁きあったりするものではないのか、と考えが過り勝手に頭に血が上った。  オレはコイツと愛を語り合いたかったのか。  そんな麻耶の様子にも気づかず、和音は天井を見上げたまま続けた。 「ラベンダーとバラはコンパニオンプランツなんだ。きっと親父はお袋とずっと一緒にいたかったのかもしれない」  目線をあげると、和音はわずかに顔を顰めていた。悲しさと苦しさが混じった険しい表情。麻耶は和音の肩に頭をすり寄せた。オレはここにいるよと教えたくて。  「じゃあオレたちがそうなればいい」  「え?」  「ずっと離れないラウンデルとローザに」  「麻耶ちゃん……」  和音は空いた腕で麻耶の体を抱いた。逞しい腕に自分のものを重ね、一ミリも離れないように身を寄せた。  「ラベンダーの花言葉って知ってる?」  「いや」  「あなたを待っていますっていうんだよ」  その言葉にあのとき途切れたままの映像が流れ始めた。  『ずっと好きだったらオレのそばにいてね』  あのときの、和音の告白めいた言葉。  コイツはあの頃からずっと俺を待っていてくれたのか。  長い年月をたった一人で耐え、ただひたすらに麻耶の姿を追い求めていたのだろうか。  その年月の重さに、胸が苦しくなる。  「好きだよ。ずっと」  「俺もだよ」  誓いを交わすように唇が重ねられた。柔らかく、甘い唇の感触。誰かを想うことがこんなにも甘美なものだとは知らなかった。  これからも和音の隣でいられたらいい。  そんなことを願った。

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