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エピローグ 今日も明日も一緒に④

『よくもユキを落としたな』 「空気の読めない毛玉だな」 『ユキはしろいのに添い寝をゆずってやってる! わかったらお昼までべたべたべたべたスミヤをひとりじめするな、ばか!』  白神様の隣で、おそらくは報復としてぶるぶると体を震わせ水を飛ばしたユキは、甘えるように澄也の腕に飛び込んできた。 「ユキ、水浸しじゃないか」 『しろいのがいじめた』 「散々暴れておいて何をかわいこぶっているんだこの毛玉。私だって髪をむしられたぞ」 『うるさい。ユキはしろいのより小さいんだぞ。かわいがれ!』 「でかくなれるくせに何を言ってるんだ、図々しい」  澄也そっちのけで喧嘩を始めたふたりを見ながら、澄也はそっと苦笑する。  しかし、澄也からすれば平和だった言い合いは、しだいにおかしな方向へと進んでいった。 「澄也がこそこそ出かけてるなんて面白いこと、見に行かなくてどうするんだ。これで何回目だと思ってる?」 『スミヤはヒミツで動いてるんだ! ユキたちのためにがんばって森を探してくれてるんだぞ! じゃまはさせない』 「……気づいてたなら言ってくれよ……」  気づかれていないと思ってひとりで出かけていたつもりが、きっちりと行動を把握されていたらしい。優秀な使い魔たちに舌を巻くと同時に、澄也は羞恥に頭を抱えた。  小狐たちはいないけれど、ばれているならこれも話すいい機会だろう。何度か咳払いして注意を引けば、白神様とユキは揃って澄也を見た。 「その……家を買いたいんだ」 「家?」 「神社(ここ)はもともと俺たちの場所じゃないし、寺にいつまでも世話になってるのもどうかと思って。結界も張れるし、白神様もユキもいるから、暮らそうと思えばほかの場所でも暮らせると思うんだ」  ぴんとこない様子で、白神様とユキは揃って首を傾げた。喧嘩ばかりするくせに、そんな仕草はたまに似ているのが面白い。 「ユキや小狐たちは外を走るのが好きだろう?」 『うん。穴を掘るとあおいのに怒られるけど』 「白神様も、畑を作ってたくらいなんだから、何か育てるのが好きなんじゃないか?」 「まあ、そうだね」 「だろ? だから、退魔師の来ないどこか森の奥に、俺たちの家を買いたいなって思ってるんだ。家族みんなでのびのび暮らせるように、静かでたくさん遊べる場所にさ。良さそうな場所、健やひまりにも手伝ってもらっていくつか見つけたんだ」  はにかみながらひそかに計画していたことを教えれば、白神様は苦笑を浮かべ、ユキは目を輝かせて尻尾を振った。 『家族? ユキたち、みんな』 「? うん。そうだろ?」 「だから仕事仕事とこだわるのかい」 「そうだよ。……秘密にしておいて驚かせたかったのに。うまくできないな」  気恥ずかしさに耐えられず下を向こうとしたけれど、できなかった。正面からは白神様に、横からはユキに強く抱きしめられたからだ。 「いいと思うよ」 「そう思ってくれる? なんだか締まらない言い方になっちゃったけど、俺と一緒に住んでくれる? 白神様」 「ああ。うまくなんてできなくたって、私はお前が大好きだよ、澄也」 『ユキも!』  続くように、どこからか白い烏の鳴き声が聞こえた気がした。ぎゅうぎゅうと抱きついてくる使い魔たちを抱き返し、苦笑しながら澄也は言葉を足した。 「山の奥なら、きっと烏だって遊びに来られるよな。 ……さあ、そろそろ戻ろう。クロは寺にいるのかな。もみじも店に置いてきちゃったから、迎えに行ってやらないと」  晴れ渡った空の下、青年は鬼と狐と手を取り合って歩き出す。  人の友人たちと縁を繋ぎ直し、ヒトでないものたちに囲まれる澄也の日々は、これからも穏やかに続いていくのだ。

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