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第七話

 「あなたたちって本当に仲がいいわね」  「そうかな?」  「仲悪いより良いけど、限度ってものがあるわよね」  海人は母親の指摘に頬を染めた。確かに兄弟でソファに座り、あまつさえ空の膝の上に乗っている状態は普通ならあり得ないだろう。  でも兄弟だから仲が良いで済まされる。きっと母親は二人の関係の変化に気付いていない。  「母さんもやる?」  「遠慮するわ」  空の言葉に鬱陶しそうに手を振って、母親は眉間 の皺を深くさせた。そんなに嫌そうにしなくても、と空の声は尻すぼみになる。  「可愛い娘ならまだしも、暑苦しい息子は嫌よ」  「なら父さんにやってもらったら?」  「想像しただけで反吐が出るわ」  「それを聞いたら父さん悲しむよ」  当の本人は庭いじりをしているので、この会話は聞いていないが救いなのかもしれない。  海人の心配を余所に、母親はショルダーバックを肩に掛けた。  「じゃあ母さん、買い物に行ってくるわね」  「いってらっしゃい」  二人のハーモニーが重なると、母親はうんと大きく頷いてリビングを出て行った。  玄関の扉が閉まる音がすると、背後の空はくすくすと笑った。  「どうしたの?」  「母さんは随分素直だなって」  「どこが?」  反吐が出ると心底不愉快そうな母親が浮かんだ。素直に嫌悪を表していたが、たぶん空が言っていることはそうではない。  「母さんは照れ屋だから素直に口に出せないの。でも耳赤くしてたし、本当はしてもらいたいんじゃないかな」  「よくみてるね」  空の観察眼に感嘆を漏らすと、だってと続けた。  「海人も同じだよ」  「嘘!」  「本当。なら試してみる?」  すっとブラウンの瞳が細められ、唇の端をいやらしく上げた。空の手が海人の頬を撫で、首、鎖骨、肩へと試すように移動する。部屋着のシャツ一枚でも空の手のひらの熱が伝わる。  「やだっ」  「でも耳真っ赤だよ」  海人の耳殻に空は歯を立てた。びりっとした刺激に肩が独りでに跳ねた。  背中から伝わる空の体温が上がってきて、海人の熱も高めていく。尚も空の手は海人の身体をまさぐり、腰がぐんと重くなった。  「もう……だめ」  「ちょっと悪戯が過ぎたかな」  「ならもう、やめて」  「んーどうしようかな」  空の手は休むことを知らず、海人の身体をじっくりと味わう。腕、胸板、腰まで下りてきて、芯を持ち始めた欲望を撫でた。  「もう勃っちゃったの?」  「だって、空が」  「俺もだよ」  空は海人の腰を抱え、自分の方へ引き寄せた。ちょうど臀部に空の欲望があたる。腰を上下に揺らされ、まるで挿入されている錯覚に陥った。  「ひゃっ、だめ」  「でも海人だってこれ、どうにかしたいよね」  空の手のひらがズボンを押し上げている海人の屹立を包んだ。布越しで触られることがもどかしく、無意識に腰が揺れた。  「海人ったら大胆」  「空が触るから」  「ごめん、わざとだから許して」  ふにゃりと目尻を下げて笑う空に海人は苦言を呑んだ。好きという気持ちはこんなにも心を寛大にさせる。  がしゃんとなにかが割れる音が響いた。音の出所を探ると庭から父親の叫び声が聞こえ、どうやら鉢を落としてしまったらしい。  「父さんいたの忘れてた」  「ここでする気だったの?」  「ちょっとね。部屋に行こっか」  尚も父親が嘆いていたが、海人は心中で父親に手を合わせ、空に手を引かれるままリビングを出た。  後ろ手に鍵を閉めた空から噛みつくようなキスをされた。効果音をつけるならガブっというほどの勢いに、海人は腰を引かせたが空の手が許さない。  これが二回目のキスだと堪能する暇も与えず、空の舌が海人の咥内を犯す。  呼吸すら奪うようなキスに、酸素が回らずらくらする。どんと空の肩を叩くとようやく唇を離してくれた。  「そんながっつくなよ」  「だって海人が可愛いんだもん」  「莫迦」  小声で非難しても甘く響き、まったく責めていない言葉に空は嬉しそうに微笑んだ。  「それにしても部屋汚いね」  「片づけ苦手なんだよ」  洋服や雑誌、教科書や読みかけの本などが床やテーブルの上に散らかっている。先週空が呆れて掃除をしてくれたが、すぐに元通りになってしまう。海人は片づけが苦手だ。  「空の部屋行く?」  「海人の匂いで溢れてるから、ここがいい」  「そんな恥ずかしいことよく言えるな」  「だって本当のことだし」  空はまたふわりと笑って、海人を促しベッドの上に座った。向かい合うように腰をかけると、もう後戻りできないと言われているような気がした。  「怖い?」  「……大丈夫」  「海人は強いね。俺はめっちゃ怖いよ」  空の手を見下ろすと小刻みに震えていた。  「大好きな海人を傷つけてたらどうしようって考えたら足が竦む」  空は震える手のひらを握りしめると、雪のように色をなくし、どれだけ空が不安に思っているのか伝わってくる。海人は空の拳を両手で包み込んだ。  「俺なら大丈夫だよ」  「海人……」  「二人で乗り越えよう」  「お兄ちゃんみたい」  「だってお兄ちゃんだもん」  空はへらっと相好を崩し、白くなった指が生気を取り戻した。  海人を後ろにゆっくりと倒すとその上に跨がる。不安そうに瞳は揺れていたが、安心させてやりたくて空の背中に腕を回した。尖った肩胛骨を撫でる。  「用意してないから最後まではできないけど」  「うん」  少し萎えてしまった屹立に空の指が触れた。  ズボンの上から焦らすようにゆっくりと擦りながら、キスの雨を降らす。犬が戯れるようなキスを受けながら、海人も空の欲望に触れた。  ジーンズの上から輪郭を辿り、この大きさが自分の身体に入るのか不安だった。  「空のおっきい」  「あんまり煽らないでよ」  「だってあっ!」  下着ごとズボンを剥ぎ取られ、直接欲望に触れられる。握り潰すほどの強さに腰がしなった。  「ああ、あっ……んん」  「声可愛い」  掠れた声で囁かれ、腰に熱が集まった。亀頭から先走りが溢れているのが自分でもわかる。水音が部屋に響き渡った。  「やだっ……ああ」  「耳真っ赤にさせて嫌じゃないくせに」  「ああっ!」  的確に弱いポイントを突いてきて海人を追いつめていく。親指と人差し指で輪をつくり、窪みを集中的に擦られた。空の荒々しい波に押され、海人は快楽の渦に溺れた。  「俺も一緒にしていい?」  空は屹立を取り出し、海人のものと一緒に上下に扱いた。先走りが二倍になり滑りをよくすると、空の扱く手がなめらかになる。一気に高みへと駆け足でのぼっていく。  「もっ、だめ」  「一緒にイこう?」  「ああ」  「んっ」  頭の中が真っ白になると腹に熱いものが降り注いだ。欲望が小さく萎んで最後の一滴まで搾りだすように、空はゆっくりと扱いた。  身体が沈むように重く、急な眠気に襲われる。虚ろげな視線を向けると、空は嬉しそうに笑った。  「海人、好きだよ」  「俺も」  幸せを噛み締めるように、もう一度キスをした。

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