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第十話

 久しぶりに食べるファストフードの味に海人はうっと息を漏らした。素材の味を殺し調味料で添加物を誤魔化しているのはあまり好きではない。  けれど武田が誘ってくれたので我が儘を言う訳もいかず、塩っ辛いポテトを紅茶で流し込んだ。  店内には制服を着た学生が大半を占めていた。参考書を手に勉強しているグループもあれば、どこで遊ぶか相談しているグループもある。どことなく落ち着かない雰囲気は明日から夏休みに入るからだろう。  「海人のお陰で補修免れたよ。まじサンキュー」  「どういたしまして」  「だから思う存分食べてくれ。今日は俺の奢りだ!」  トレイいっぱいに積まれたハンバーガーとポテトの山は、武田の感謝の気持ちをそのまま表していた。よっぽど補修が嫌だったらしい。  「気持ちは嬉しいけど、こんなに食べれないよ」  「そうか?じゃあ俺も食べようかな」  武田はハンバーグの封を開け食べ始めた。美味しそうに咀嚼する姿は空と被るところがある。今度空にもハンバーガーを作ってやろう。  「そういえば空は?」  「今日は先に帰るって」  放課後、武田と遊びに行くと伝えたら空は行っといで、と見送ってくれた。  「最近教室にも顔を見せないし、兄離れしてんのか」  「……そうかも」  空は以前ほど頻繁に海人のクラスに来なくなった。束縛はしたくないと空なりに男気をみせたつもりらしいが、海人にとって逆効果だった。  休み時間の度に空が来ないかそわそわしてしまう。扉の開閉音につい視線を向けてしまい、空ではないことで落胆する時間を過ごしている。  そのことを伝えると「それって誘ってるの?」と返され顔を俯かせた。  確かに海人も空の顔をみたら触れたくなってしまう。空の熱情を知ってしまった身体には、触れ合わないことなんてできそうもない。  「最近の海人、雰囲気変わったな」  頬についたケチャプも紙ナプキンで拭いた武田は、再びハンバーガーに囓りついた。海人はポテトに指を伸ばす。  「どんな風に?」  「うまく言葉にできないけど色っぽくなった」  「そ、そうかな」  「女でもできた?」  武田は小指をあげ、意味深な笑みを浮かべた。  友人の何気ない一言に心臓が冷えていく。  海人の反応を窺うように武田の瞳はきらりと光る。  海人はポテトを頬張り平静を装った。  「そんなのいないよ」  「ま、そうだよな。お前に女が出来たら空が騒ぎそうなもんだし」  「再来年は受験で恋愛なんて出来ないだろうし、いまのうちに彼女を作って遊んだ方が いいよな」  「そうだね」  武田に同調しても空の顔ばかり浮かべていた。

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