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第6話 スコティッシュフォールド③
プッシールームは実入りがいい
ミナミは昼間はカラオケ店でバイトをしているが、それだけではとても生活できない
彼女が出ていったことで、中目黒にある1LDKのマンションが一夜にして不相応になものになった
「てか遅刻する!ホントごめんなさいでした!もう行っていい?」
「調子いいなあ。お前、担当何?」
バーテンダー、もといオーナーの男が聞いた
「…来たりしねーだろうな?」
「行かねーから安心しろ。身分証の代わりみたいなもんだ」
「…スコティッシュフォールド」
「スコティッシュフォールド?確認するからちょっと待ってろ」
そう言うとオーナーの男はスマホを耳に当て、離れたところで電話をし出した
ミナミは聞き耳をたてた
「おう。なんかクルクルした猫ッ毛の、目が真ん丸くてでかい。中学生みたいな。え?28歳?あれで?見た目とかじゃねーよ。行動がやばいんだって」
行動とはゴミ箱を蹴っていたことだろう
さすがにいまは反省している
「ナンバー1にしては品性が足りねーよ。お前、ちゃんとしつけとけよな?体がエロい?かんけーねーから」
片方の話だけで、相手が何を話しているかわかり、いてもたってもいられなくなった
「確認取れた。お前、ミナミだな?」
「うす…てかこわっ!誰にかけたの?!」
「だから、オーナーだって」
プッシールームのオーナーなんて、ナンバー1のミナミですら会ったことがない
ミナミが立ち上がると、バーのオーナーの男はまだそれほどふかしていないタバコをもみ消した
「お前さ、これから出勤ある日は2時間前にココ寄れ。仕事させてやる」
「仕事?俺、外でウリはやんねーよ?」
「ちげーよ。まともな仕事就きたいんだろ?」
ミナミは口をつぐんだ
「ま、プッシールーム やめたら次は直で掘られる方に転職するしかないだろうな。今までの客を店から連れて独立すれば結構稼げるとは思うけどな。まあ、まともに稼げる期間はあと2年ってとこだろうけど」
男のミナミを見る目は、なぜか悲しげで険しかった
※※※※※※※※※※
「よ!」
控え室で【ロシアンブルー】のリンと鉢合わせた
「5分遅刻。指名客」
リンはスマホから顔を上げずに言った
「それ、マサトさんにも言われたから」
ミナミはロッカーにバッグを突っ込むと、服を脱いで学ランに着替えた
【マサト】はプッシールームの雇われ店長兼受付兼黒服だ
マサトはオーナーから聞いたのか、ミナミが来るなり「お前何したの?」といつもの眠そうな顔で聞いてきた
「なーんもでーす」
マサトを適当にあしらって控え室に来たのに、今度は年下の同僚からも小言を言われる
今日はとことんツイてない日だと思った
ミナミは横目でリンを見た
この陰気な同僚は苦手だ
プッシールームで一番若くて勤務歴も短いのに、やたらと態度がでかく、人を見透かしたような喋り方をする
よくも悪くも軽いミナミとは対局に位置した
腹立ち紛れにロッカーのドアを叩きつけるように閉め、ミナミはスコティッシュフォールドの部屋へ向かった
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