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第27話 アメリカンショートヘア①

二次会には馴染みのカラオケに行くことにしている こちらもオーナーの知り合いの店で、いつもサービスをしてくれる 「オーナーといいハセさんといい、顔広いけど、新宿の水商売の経営者だけの付き合いとかあるのかね?」 マヤがコンビニで買ったワンカップ酒の蓋を開けて言った 「ハセさんはともかく、オーナーの顔って、1号店(うち)だとカズナリさん、2号店だとマサトさんしか知らないんでしょ?ヤクザとかなのかな?」 リナが軽やかな足取りには似ても似つかない不穏な発言をした 深夜の歌舞伎町は様々な華やかな人種のるつぼだ プッシールームのメンバーも街の一部となる カラオケに向かって歌舞伎町を歩いていると、目立つ派手なグループとすれ違った 「あれ、九?」 そのうちの一人が立ち止まった 「トワ」 九も立ち止まった トワと呼ばれた男が立ち止まったことにより、連れのグループも立ち止まって九を見た 「意外。新宿で夜遊びとかするんだ」 トワはプッシールームの面々を見て、 「かわいーお兄さんとお姉さんたくさん引き連れて何してんの?」 と言った 「トワは?」 九は、【Tout(トゥ)】というユニセックスファッション誌の読者モデルをしている トワはそこのモデル仲間だ トワの連れはモデル仲間なのか、皆スタイルがよくおしゃれで、雑誌やテレビで見たことがある顔が何人かいた 「俺らはクラブイベントの帰り」 「楽しそうじゃん」 「お前らは?」 「知り合いのバーで飲んでた。そんでまた知り合いのカラオケ」 九は言った後に、自分がトワに対してマウンティングをとろうとしたのだと気づいた 「知り合いの店ばっかじゃん」 「わざわざ知らないとこに入る気しなくね?」 「まあな」 その時トワの袖を女の子が引っ張った 「ねーねー、トワ、その子【Tout(トゥ)】の九ちゃんでしょ?紹介してよ」 いま人気のティーン向けユニセックスブランドのイメージモデルを務めている子だった 正直、トワや九より格上のモデルで、紹介して欲しいなどと言われる筋合いではないが、九は接客用の笑顔で手を差し出した 「【Tout(トゥ)】の九です。おねーさんは【tooodai(トーダイ)】のセリリさんですよね?」 「そーだよ。九ちゃん、実物ほんとかわいいね」 「セリリさんこそ」 個性派メイクで若者に絶大な人気を誇るセリリにかわいいと言われたらまんざらでもない その時、 「九、先行ってるねー」 ワンカップを飲み終えたマヤが九を呼んだ いつの間にか、プッシールームの面々はだいぶ先を歩いていた 「九のツレ冷てー」 「九ちゃんもこれからうちらと飲みに行こうよ。置いてかれちゃったんだし」 セリリが腕に絡み付いてきたが、九はそっと離れ、 「悪いけど、またね」 と言ってマヤたちを追いかけた 「九さん、あんな人たちと付き合いあるんですね。こわっ!」 エチゼンが自分の両腕を抱き締めてさすった 「『すごい』じゃなくて『こわい』って言うあたり、エチゼンの陰キャっぷりが伺えるわあ」 辛口のレーコがまたエチゼンをいじった これでは辛口というより言葉攻めである レーコなりの信頼の証なのだ 「あ、九来た」 九とマヤが皆に追い付いた 「九さん、向こうと合流しなくてもよかったんですか?」 アヤメが気を使って聞いた 「ん、だいじょーぶ。てかほぼ知らないひとばかりだったし」 「あのトワってひと、九のこと好きなんじゃない?」 リナが九の顔を覗き込んできた 「は?なんでそんなことー」 しかし、いざ言葉で指摘されると、言い知れぬ不安が心の中にさざ波を立てた ※※※※※※※※※※※※ ホストクラブで、トワが店で一番いいボックス席に座ると隣に見知らぬ男が座った 遊び仲間の知り合いの誰かだろう クラブから移動する際にはいた気がする だが、自分の直接の知り合いでもない相手が、自分の隣に座ることは捨て置けない 「お前誰だよ」 トワが排除しようとすると、男がトワに満面の笑顔を向けて、 「さっきの人…九さん?プッシールームのプレイヤーといましたけど、どういう知り合いなんですかね?」 「は?」 「女の子たちは知ってるけど、男も2号店のプレイヤーですかね?」 プッシールーム? トワは、自分にも知らない店があったのかと妙なイラつきを感じた 【Tout(トゥ)】とはフランス語で【すべて】と言う意味の言葉を表す ジェンダー、LGBTQなどの問題を、ファッションの視点から垣根をなくしていこうというのがコンセプトの雑誌だ 専属のモデルはおらず、コンセプトに合いそうな一般人を街でスカウトする 反響が高い読者モデルは多用され、謝礼金も高い トワや九は編集部内でだけ使われる言葉で、【Sランク】と呼ばれる人気上位の読者モデルで、ほぼ毎号起用されている ※※※※※※※※※※※※※※ 「プッシールームって?」 「トワさん知らないんですか?女の子がオナニーを見せてくれる風俗店ですよ。俺、一度行ったことがあって。俺を接客した子はあの中にはいなかったけど」 トワの食い付きを確かめて、男はドリンクをオーダーした いつもなら蹴飛ばして立ち上がらせるとこだが、今は興味が先立った だが、決してがっつかない それが自分の価値を高めることをトワは知っている 「ふーん」 興味のないフリをして、注がれたシャンパンを飲んだ トワがいくら人気の読モでも、ホストクラブで豪遊するカネなど稼げない トワがこんなに傍若無人に振る舞えるのは父親の仕事に関係があった

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