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第47話 アメリカンカール

滋はいわゆる『スーパーモデル』の部類に入る 年齢は28歳 マサトの2つ下になる 二人の出会いは中学で、マサトが中3、滋が中1の時、部活棟でいじめられていた滋をマサトが助けたのがきっかけだ 滋は当時から首が細くて長いのを『キリン』だの『首長竜』だの言われてからかわれていた その時にはすでにモデルの端くれみたいな仕事をしていたから、首が長くてきれいであることの必要性はわかっていたが、モデル業界では当たり前にあるべき姿なので誰に褒められるわけでもなかった 自分に必要な【資産】であっても、中学生が日々の生活の大半を占める学校という場で、毎日のようにいじられ罵られると自分の価値が地の底まで落ちるように感じる そんなときに、自分を助けてくれなおかつ「首が長くてきれいだ」と言ってくれた|マサト《ヒト》を誰が好きにならずにいられるだろうか 滋はあっという間に恋に落ち、以来15年以上マサトに信頼を寄せている 別れる転機は幾度もあった でもその度に見えない力に引き戻されてきた 5年前のあの夜もそうだった 滋はショーの後、クラブを貸しきって開かれた打ち上げに参加した そこにいた実業家だか経営者の男に色々飲まされて、気づいた時はホテルのベッドの上だった 滋は動揺してたまたま着信があったマサトからの電話を取ってしまった 『おはよう。体調は大丈夫?』 「マサト…!マサト…!」 滋のただならない様子に、なんとか場所だけ聞き出したマサトは慌ててホテルに向かった 駆けつけた先にいた滋は、目こそ腫れていたものの、よく見る二日酔い明けの姿だった 「昨日の夜電話かけたときはマネージーの城田さんが出て、滋が体調崩したからこのホテルに泊まらせますって言ってたぞ。だからそんなに動揺しなくても…」 マサトはベッドの上で震える滋の頭を撫でながら言った だがマサトの言葉を聞いた瞬間、滋は誰かに計られたことを確信した 「昨日、城田さんは打ち上げにいなかった…」 滋を撫でるマサトの手が止まった すぐに婦人科に駆け込んで診てもらったが、膣内はきれいとのことだった 念のためアフターピルを処方してもらった滋は、数日副反応で辛そうだった そんな出来事があったにも関わらず季節はめぐる マサトと滋は、表面上は前と変わらず仲のいい恋人同士だった だが、少なくともマサトは、ずっと心に釣り針のようなものが引っ掛かっていて、滋の顔を見るたびにその痛みを飲み込んでいた それはとても正常な精神状態とは言えなかった 滋を殺して自分も死のうと何度も思った 3か月くらい経ったある日、久々に外でデートをしていると滋がふいに立ち止まった 後ろを歩いていた人たちが怪訝な顔を向けて二人を追い越していった 「滋?」 滋の顔を覗き込むと、夏だというのに氷のように真っ白だった 元から色白ではあるが、血の気がなく蒼白 一瞬で何かがあったのだと察した 「あの人…」 滋が震える指で前方を指差した そこにいたのは高校生くらいの男の子を連れた黒いスーツの中年男性だった ネクタイが真っ黒だから葬式か何かの帰りかもしれない 「私に、お酒をたくさん勧めて来たひと」 マサトは滋をその場に残し、とっさに男の元に走った だが、マサトがたどり着くより先に迎えに来た車が男と高校生の横に止まった 間に合わないと悟ったマサト、慌ててスマホのカメラを男に向けた 結局男はマサトに気づかぬまま、車に乗って走り去ってしまった マサトは立ち止まって肩で息をした 手元のスマホには不鮮明な男の横顔が映っていた

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