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第46話 ヒヤとレイジ③

「最後の客、誰だった?」 マサトは念のため帳簿を繰った プッシールームは非接触ということで、風俗店の中ではハンデがある分、年齢だけ確認できるものがあれば匿名で利用できるのがウリだ 分かるのは会員カードに書かれた名前だが、偽名も可能なためその名前自体には価値はない だが会員カードで年齢と来店履歴は管理されている 「サタゼンジさん、新規客だな。あからさまなハンネではないから、SNSで引っ掛かればもうけもんだな」 マサトは店のデータを管理している端末を操作した 「どんな人か覚えてますか?」 清掃を終えたエチゼンが声をかけた 「若かった…?キャップ被ってたよ」 「元彼とか、AV関係者ですかね?ファンが来たときでも、ここまでひどいことはなかったのでリアルな知り合いかも」 マサトは、エチゼンの推理を聞き流して画面をスクロールした 「あ、いた」 マサトの手が止まった 「ええ?!本名だったってことですか?!」 「確かにこいつだ。本名使うとかバカだねえ」 サタゼンジが引っ掛かったのは、エチゼンもアカウントを持っている日本で一番ユーザー登録者数が多いSNSだ そこには、買ったばかりの服のコーディネートを試している写真や、カラオケで95点を取った動画、友人たちとバーベキューをする写真などが惜しみ無く投稿されていた サタゼンジの相貌は、一言で言えば【こういうタイプ好きな女子っているよね】(エチゼン談)だった 上背があり、ガッチリとしている 首が太くて小顔 短髪で海やサングラスがよく似合う 感じ 「ウェイすぎて引くんスけど…」 「エチゼンとはま反対の人種だな」 マサトが画面から目を離さずに笑った しばらくサタゼンジのページをスクロールしていく 「マジで隠す気ゼロっすね」 「デジタルネイティブの癖に危機管理薄いなあ…」 「逆じゃないですか?身近にありすぎて、使い分けするっていう考えがハナからないっていうか…」 「そういうもん?」 マサトはサタゼンジの顔や背格好がはっきりわかる画像を何枚か保存した 「どうするんですか?」 「ちょっとオーナーと相談するわ。悪かったな、エチゼン。もう帰っていいぞ」 「おつかれッス」 エチゼンが帰ったあと、マサトは戸締まりと火の元を確認して店を出た 「マーサート」 店の前に1台の見慣れたGT‐Rが止まっていた 助手席の窓から覗き込むように顔を出したのはこちらも見慣れた女性だった 「(しげる)」 マサトは助手席に乗り込んだ 「どうしたの?珍しい」 「ちょっと流したくてさ~付き合ってもらおうと思って」 滋のきれいな指がハンドルの上を滑った 「俺もちょうど考えたいことがあったんだ」 滋はマサトに微笑みかけると、ギアを入れてアクセルを踏んだ

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