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第45話 ヒヤとレイジ②

【家についていったら相手が獣でした3】 と、もう一本予定していた作品を撮って、冷はAV俳優を引退した 引き抜いたのは【家についていったら相手が獣でした3】の撮影時に出会ったハセという男だった あの撮影の後、こ洒落たジャケットとスラックスを着させられ、一流ホテルのラウンジに連れていかれたから、てっきり枕でもやらされるのかと思ったが、ハセが持ちかけてきた話はヒヤにとって悪くない話だった ※※※※※※※※※※ 「オナニーを見せる店?ですか?」 「そう。一人辞めちゃうコがいてちょうど人を探してたんだ。ヒヤくんなら容姿はもちろん、演技の経験も後ろの方の経験も申し分ないし、店で扱ってるオモチャの使い方も大体わかるだろ?」 ハセの口ぶりから、ハセがヒヤの出演したAVをきちんと観てきたであろうことが予測できた 「まあ、ヒヤくんなら、AVでもしばらくは引く手あまただろうし、無理にとは言わないけど、AV出て一本いくらってよりかは収入は安定すると思うよ」 ハセは店の給与体系について細かく教えてくれた 一応基本給のようなものがあり、出勤が少ない月でもその分は補償される そこに客の数、オプション代、指名代などが上乗せされる 勤務時間は早番と遅番があり、23区内に住んでいて学生ではないヒヤは、主に遅番の21時~2時勤務になるだろうと言われた 「…俺の手首のことは知ってますか?」 「聞いてる」 「それでも大丈夫なものなんでしょうか?接客業…ですよね?」 「実際に触れるわけではないからね。完全に全裸になることは意外と少ないし、気になるならリストバンドとかテーピングでも大丈夫だと思うよ。店長には俺から言っておくし」 悪くないどころか飛び付きたい話だが、疑問がひとつある 「なんで、俺にそこまでよくしてくれるんですか?」 冷が質問すると、ハセはダンッと音がなるほど荒々しくロンググラスを置いた 「風俗店紹介されて『よくしてくれてる』なんて言うんじゃない」 低い声が冷のグラスを持つ手に響いた だが、その言葉によって、冷はハセの提案を受けようと決めた (レイ)が、【ヒヤ】の名前でプッシールーム2号店で働き始めてから2週間ほどたった 評判は上々 時々、どこで知ったのか、AV時代のファンが訪れてきてAVと同じシチュエーションを希望することがあった そのことを店長のマサトにポロッと漏らすと、「ヒヤ君的にはどう?」と聞かれた 「作品気に入って来てくれるのは嬉しいですけど、複雑ですね」 と答えると、マサトはヒヤのメニューにAVコースという1万円のオプションを追加した ※※※※※※※※※※※※ 「マサトさん、ちょっといいですか?」 プレイヤーが全員上がった後、清掃スタッフのエチゼンがマサトに声をかけた 「どした?」 「ヒヤさんなんですけど…」 見てもらえばわかるとばかりに、エチゼンは何も言わずに先に立って細い廊下を進んだ 行き先は少し前までヒヤがプレイしていたソマリの部屋だった 「ヒヤさんが入った直後から気にはなってたんですけど…」 「?」 マサトがエチゼンの目線の先を見ると、シーツの上に何かが散乱していた 「なんだこれ?」 マサトはそれを拾い上げた 固くて小さくて白い、尖ったものだった 「多分それは爪ですね。皮膚っぽいものもあるんスけど…」 「は?」 マサトは拾った欠片を慌てて捨てた 「これ毎回?」 「毎回じゃないし、あっても少しなんでそのまま掃除してたんですけど、今日はひどかったんで…」 リスカだけじゃなかったのかよ… マサトは、自分の荷の重さに押し潰されそうになった

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