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第45話 ヒヤとレイジ②
【家についていったら相手が獣でした3】
と、もう一本予定していた作品を撮って、冷はAV俳優を引退した
引き抜いたのは【家についていったら相手が獣でした3】の撮影時に出会ったハセという男だった
あの撮影の後、こ洒落たジャケットとスラックスを着させられ、一流ホテルのラウンジに連れていかれたから、てっきり枕でもやらされるのかと思ったが、ハセが持ちかけてきた話はヒヤにとって悪くない話だった
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「オナニーを見せる店?ですか?」
「そう。一人辞めちゃうコがいてちょうど人を探してたんだ。ヒヤくんなら容姿はもちろん、演技の経験も後ろの方の経験も申し分ないし、店で扱ってるオモチャの使い方も大体わかるだろ?」
ハセの口ぶりから、ハセがヒヤの出演したAVをきちんと観てきたであろうことが予測できた
「まあ、ヒヤくんなら、AVでもしばらくは引く手あまただろうし、無理にとは言わないけど、AV出て一本いくらってよりかは収入は安定すると思うよ」
ハセは店の給与体系について細かく教えてくれた
一応基本給のようなものがあり、出勤が少ない月でもその分は補償される
そこに客の数、オプション代、指名代などが上乗せされる
勤務時間は早番と遅番があり、23区内に住んでいて学生ではないヒヤは、主に遅番の21時~2時勤務になるだろうと言われた
「…俺の手首のことは知ってますか?」
「聞いてる」
「それでも大丈夫なものなんでしょうか?接客業…ですよね?」
「実際に触れるわけではないからね。完全に全裸になることは意外と少ないし、気になるならリストバンドとかテーピングでも大丈夫だと思うよ。店長には俺から言っておくし」
悪くないどころか飛び付きたい話だが、疑問がひとつある
「なんで、俺にそこまでよくしてくれるんですか?」
冷が質問すると、ハセはダンッと音がなるほど荒々しくロンググラスを置いた
「風俗店紹介されて『よくしてくれてる』なんて言うんじゃない」
低い声が冷のグラスを持つ手に響いた
だが、その言葉によって、冷はハセの提案を受けようと決めた
冷 が、【ヒヤ】の名前でプッシールーム2号店で働き始めてから2週間ほどたった
評判は上々
時々、どこで知ったのか、AV時代のファンが訪れてきてAVと同じシチュエーションを希望することがあった
そのことを店長のマサトにポロッと漏らすと、「ヒヤ君的にはどう?」と聞かれた
「作品気に入って来てくれるのは嬉しいですけど、複雑ですね」
と答えると、マサトはヒヤのメニューにAVコースという1万円のオプションを追加した
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「マサトさん、ちょっといいですか?」
プレイヤーが全員上がった後、清掃スタッフのエチゼンがマサトに声をかけた
「どした?」
「ヒヤさんなんですけど…」
見てもらえばわかるとばかりに、エチゼンは何も言わずに先に立って細い廊下を進んだ
行き先は少し前までヒヤがプレイしていたソマリの部屋だった
「ヒヤさんが入った直後から気にはなってたんですけど…」
「?」
マサトがエチゼンの目線の先を見ると、シーツの上に何かが散乱していた
「なんだこれ?」
マサトはそれを拾い上げた
固くて小さくて白い、尖ったものだった
「多分それは爪ですね。皮膚っぽいものもあるんスけど…」
「は?」
マサトは拾った欠片を慌てて捨てた
「これ毎回?」
「毎回じゃないし、あっても少しなんでそのまま掃除してたんですけど、今日はひどかったんで…」
リスカだけじゃなかったのかよ…
マサトは、自分の荷の重さに押し潰されそうになった
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