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第49話 3匹の雄ネコ②
名前を突き詰めただけでは終わりではないとアットも思ってる
【長谷川公博】の名前を元に、調べられるところまで調べ尽くすつもりだ
アットは家に帰る前に何でも屋に寄った
「仕事終わったー?」
ドアが開く音を聞き付けた鮭児 が顔を出した
アットが店を出たときと同じ体勢でパソコンを弄っている
「お前は…まだっぽいな?」
「そうなんだよー。タントくんに頼もうかな」
アットはマウスを操作する鮭児の手を取ると、
「兄貴に頼まなくても俺がやるし」
と言って一緒に動かした
「あとちょっとじゃん」
わざと鮭児の耳にかかるように呟く
「ほんと?5時間頑張ったからねー」
カチカチというマウスの音が事務所の中に響いた
自分から仕掛けた癖に、緊張でアットの手に汗がにじんできた
「鮭 …」
アットが鮭児の耳を啄 もうとすると、
「鮭児ー!アットいるー?!」
大きな音を立ててドアが開いた
ズカズカと入ってきたのはアットの兄の淡人 だ
「タント♡」
鮭児は5時間へばりついていたパソコンからあっさりと離れ、タントの元に駆け寄った
一気に緊張が解けてアットはホッとしつつもガッカリした
これもいつものことだ
タントは鮭児を軽くあしらい、
「アット、一緒に帰ろう♡」
と言った
この関係に名前をつけるならなんなんだろう
この3人はこんな関係をもう10年くらい続けている
※※※※※※※※※※※※
『店長やオーナーからは長谷川さんて呼ばれてる!新宿でバーとか手広くやってるらしい!あとは知らない!』
【TEATRO 】の店員から聞き出せたのはそれだけだった
昨日は時間がなくて新宿まで足を運べなかったが、新宿界隈に顔が利く知り合いに【長谷川】という名前と画像を送ったところ、すぐにフルネームが判明した
今日は改めて聞き込みをするために新宿にやって来た
フルネームがわかっていればより詳しく素性がわかるだろう
新宿の真昼は遅い
だが、一般的な昼の間でも回れるところはたくさんある
昨日名前を教えてくれた知り合いは、その場にいた客に聞いたと言っていたから、その筋ではなく飲食店の経営者の筋から攻めることにした
「ちーす」
アットは区役所通りにある酒屋に顔を出した
「アッちゃん!久しぶり!」
アットが以前バイトしていた思い出横丁の焼き鳥屋に酒を卸していた店だ
畑違いだが、他の卸の店を知らないから仕方がない
「こんにちは!おっちゃん元気?」
「歳で敵わねーや。あっちゃんはいま何してるの?」
「バンドバンド。あと、友達の何でも屋手伝ってるんだけど、おっちゃんに聞きたいのとがあって」
アットは長谷川の写真を見せた
「この人がやってる店に酒卸したりしてないかな?長谷川公博さんって言うらしいんだけど…」
「長谷川さんねえ…」
この時点でピンと来ないということは、知らないのだろう
アットは質問を変えた
「じゃあさ、バー関係者が出入りしてそうな店知らないかな?どうやらバーの経営者らしいんだけど…」
「バー経営者ねえ…じゃあ得意先のバー紹介してやるよ」
主人は歌舞伎町にあるバーの名刺をくれた
アットは主人に礼を言って街に出た
バイト時代を思い出して歌舞伎町までぶらぶらと歩く
通いつめた楽器店、レコード屋、スタジオ、居酒屋、ゲーセン、ダーツバーなど、昔と変わっていないところもあれば、影も形も無くなってしまったところもある
街の風景と共にそれを見る自分も変わったのだと、改めて感じた
時間はちょうどバー開店の6時になっていた
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