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第55話 ソマリの居場所①

ホストクラブに助けを求めに行くと、黒服3人がすぐに向かってくれた 店長に大まかな事情を説明すると、「そっちのオーナーの知り合いの刑事が行くと思うから、面倒なことになりそうだったらここにいなよ」と言ってくれた 話しを聞いていくと、どうやらビルのテナント同士で相互扶助の契約がなされているらしい ホストクラブの黒服はビル全体の黒服だったというわけだ いまさら恐怖が襲ってきて、エチゼンは震えが止まらなかった ヒヤがエチゼンの手を握って「大丈夫?」と聞いた 恐怖を感じるべきはヒヤなのに、エチゼンは自分が情けなくなって涙が溢れてきた 「コースケ?!どうしたの?!」 ヒヤが焦りだした 「ごめん…」 袖で拭っても拭っても涙が出てきた 恐怖と、興奮と、同情と、哀れみと、悲しさがないまぜになって、感情がフルフルと揺れた ※※※※※※※※※※※ 二人はそのままタクシーに飛び乗り、エチゼンの家に帰った 「はい、はい、すみません。はい、大丈夫です。わかりました」 やっと涙が収まって、エチゼンがマサトに電話をかけたのは午後10時すぎだった 泣き止むまでたっぷり1時間かかったことになる 「警察が来たから店を締めたって。今夜は戻ってこなくてもいいって言われた」 電話を切ったエチゼンがヒヤの隣に戻ってきて座った ヒヤは、泣きじゃくるエチゼンの背中をずっと撫でてくれていたのだ 「店に迷惑かけちゃった」 ヒヤが消え入りそうな声で呟いた 「あんなもんうちの店ではたまにあることだから…あ、でもマサトさんは青アザだらけらしいけど」 エチゼンが笑ってもヒヤの顔は陰鬱としたままだ こんな顔をさせるくらいなら、もっと泣いていればよかったとエチゼンは思った 「たまにあることなら、コースケは何で泣いたの?」 「それは…」 ヒヤが栗色の瞳でエチゼンを見つめた 納得のいく答えを待っているのだ 「ヒヤがあいつに傷つけられるんじゃないかと思ったら、怖くて…」 「え?俺のこと?」 「う…」 エチゼンは認めざるを得なかった 自分がヒヤに対して、友人とは違う感情を抱いていると 「そういえば、今日は爪噛みしてないな」 エチゼンは話題をそらした 「ずっとコースケの背中をさすってたからかな?」 「じゃあ、何かをしていればいいんだな。爪噛めないように手袋するとかは?」 「やったことあるけど、外した時の方がひどくて」 「ずっと手袋をはめてるわけにはいかないしなあ」 考え込むエチゼンの横でヒヤがモジモジし出した 「こないだからちょっとやってみたいな、と思ったことがあって…」 「なん?」 エチゼンと目が合ったヒヤの瞳が揺らいで煌めいた 「例えば、さ…」 ヒヤがエチゼンの手の上に自分の手を重ねた 「こういうのは、どう?」 ヒヤの瞳が真っ直ぐにエチゼンに向かってきたかと思うと、ふにっとした感触が唇に触れた 「これなら口塞がるじゃん?」 離れ際に、ヒヤがぺろりと唇を舐めた姿がエロすぎてエチゼンは全身が固まった 「コースケさえよければ。それに手も…」 エチゼンの指の間ひとつひとつにヒヤの指が挟み込まれた 「こうしてれば、俺、噛めないし…」 「確か、に?」 エチゼンにとって、やっと絞り出した4文字だった なんだかうまく丸め込まれたような気がしたが、さっきのキスでエチゼンの理性は崩壊寸前だった 「できれば、長く…」 ヒヤの唇がまたエチゼンに近づいてきた 「…長くって、どのくらい?」 「うーん、とりあえず一晩?」 「は?一晩?!」 崩れかけた理性が少し建て直された いくら限界とはいえ、一晩中できる自信はない 「その反応傷つく。別にセックスするわけじゃないんだし」 え? セックスじゃないの? ここまでやっといて? エチゼンの目にまた涙が込み上げてきた 「…」 エチゼンはグッと涙をこらえた まあいい! キスできただけでも儲けもんじゃん 相手、男だけどさ でも でも 初めてのキスを好きな人とちゃんとできた

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