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第54話 レイジとゼンジ②

それからしばらくは平穏に過ぎた あれから、ヒヤの出すゴミは減っているように思う エチゼンは、自分が話を聞いたことが悪い方に進まなかったことに、まずホッとした エチゼンとヒヤは時々遊ぶ仲になった 見た目に反して少年のようなところがあるヒヤは、ゲームが大好きで、エチゼンが作ったゲームをあれこれ言いながらプレーする それが開発の参考になることもあれば、ただただムカつく時もあるが、20歳過ぎてバカ話で笑える友達との時間は貴重だと思った だが、その静寂は突然破られた 清掃スタッフのエチゼンはプレイヤーより30分遅く出勤する 扉を開けようとしたとき、中がなにやら騒がしいことに気がつきドアを引く手を止めた なにやら罵り合うような声が聞こえる マサトの声はわかるが、相手の声は聞き覚えがない 「アフターとか以前に君は出禁だから!」 マサトの声の後、男の怒号と共にガタガタという物音がした エチゼンはとっさにスタッフマニュアルを思い出した 外にいるときに店の異変に気がついたときは、下の階のホストクラブの黒服を呼ぶことになっている 警察を呼ぶかどうか決めるのはそのあとだ 黒服を呼ぼうとエチゼンが階段を降りかけた時、 「いいからレイジ出せ!」 という声が聞こえた その声を聞いたエチゼンは、スタッフマニュアルのことなど忘れとっさに店に飛び込んだ 「サタゼンジ!」 エチゼンが飛び込んだ時、サタはマサトの制止を振り切って、受付カウンターを乗り越えて中に押し入ろうとしていた プレイヤーがいる控え室やプレイルームに行くにルートを、サタは先日来たときに確認したのかもしれない 「マサトさん!」 エチゼンが駆け寄ろうとすると、マサトが視線を右にむけた そっちは客側の部屋が並ぶ通路である マサトはエチゼンに「早く!」と言ってサタの足にしがみついた 何事かと廊下に出てきた客に頭を下げて通してもらい、エチゼンはサタとは反対側からバックヤードに回って、ソマリのプレイルームに駆け込んだ ヒヤはちょうど30分のプレイを終えて服を羽織ったところだった 「ヒヤ!」 エチゼンが手を伸ばすと、ヒヤはなにも言わずにその手を掴んだ 「マサトさん!」 エチゼンの声を聞いたマサトはサタの足を離した 足枷が外れたサタが控え室を駆け抜け、プレイヤー側の通路に出たちょうどその時、エチゼンとヒヤは客が使う通路を通ってそのまま店を出た ※※※※※※※※※※※ エチゼンが呼んだホストクラブの黒服がサタを捕まえて縛り上げてくれた マサトがリンの指示に従って待っていると、生活安全課の刑事が二人やって来て何も聞かずにサタを連行していった 「ごめん、来るの遅くなった」 刑事が帰ってから30分ほどしてリンがやって来た 「客は?」 リンが被害状況を確認しながらマサトに聞いた 「警察が帰るまでは部屋にいてもらって順次帰ったよ。今日は新規は取らないで、以降の客は、店に向かっている客や連絡が取れない客以外はキャンセルにしてもらった」 「鉢合わせた客はいなかったんだな?」 「幸いな」 リンが控え室を覗くと、タキ、コノエ、コタローが暇をもて余してスマホゲームをしていた 「九は接客中」 マサトはリンが見えないように控え室の扉を閉めた 「ヒヤは?」 「あー…」 マサトがポリポリと頭を掻いた 「…逃避行中…?」

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