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第53話 レイジとゼンジ①
※胸クソ注意です※
苦手な方は飛ばしてください
小さい頃のサタゼンジは、美形で頭のいい兄 の陰に隠れて、目立たない引っ込み思案な男の子だった
だが中2の時、ひとつ上の兄 について話すと、皆が興味津々で聞いてくれることがわかった
ヒヤの話をすると、みんなが笑ったり、驚いたり、とにかくゼンジの一言一言を皆が耳を傾けて聞いてくれる
ある時兄に彼女ができたという噂が流れ、皆がゼンジに真偽を問い詰めた
ゼンジはそんな話しは聞いたことがなかった
だが、自分が兄から教えてもらえていないと思われたくなくて、何の魔が差したか、「彼女はいるけど、兄貴が一番好きなのは俺だから」と答えてしまう
それから、佐田兄弟はデキているという噂が流れ始めた
周りから「兄貴はどうか」と聞かれたゼンジは、ちっぽけなプライドのために嘘を真実にすることを選んだ
『ゼンジ…!やめろ…!』
抱いてみると、兄の身体は病み付きになるくらいよかった
ゼンジはレイジを毎晩のように抱くようになった
時にはゼンジの友だちの相手をさせられることもあった
その頃から少しずつレイジの心は崩れ始めていった
ゼンジに会わなくて済むように、昼間寝て夜出かけるなるようになった
入ったばかりの高校はすぐに不登校になって、やがて放校になった
出歩いているうちに家に帰らなくなり、宿泊場所を提供してくれた知人のツテでAVに出演するようになった
幸い、紹介されたところは真っ当なレーベルで、AVが売れれば売れるほど生活は豊かになった
AVに出始めて1年を経つ頃には、マンションを借りて一人で生活できるようになっていた
しかし、いつからか『死にたい』『消えてなくなりたい』という思いがまとわりつき、何度もリストカットをするようになった
常に身体のどこかに痛みを感じていないと落ち着かないため、爪噛みや皮剥きをするようになった
※※※※※※※※※※
「うおぉぉぉぉ…」
あまりに衝撃的な過去に、エチゼンは唸ることしかできなかった
「でも、家を出てからはずっと会ってなかったんだよね?それなら…」
「そうなんだけど、どうやら俺の引退がネットニュースに上がったみたいで…」
「ええ…そんな有名人だったの?」
「うん、俺も知らなかったんだけどさ…」
ヒヤが恥ずかしそうに目を伏せた
大きな黒い瞳に、長いまつげが布団のように覆い被さった
確かにこれは…
エチゼンは息を飲んだ
いままで気がつかなかったのが不思議なくらいで、どれだけテンパッてたんだ自分、と思った
陶磁のような白くて滑らかな肌、少し肉厚な唇、きれいに整えられた眉、茶色い瞳の中に見える真っ黒な瞳孔
ウケとして人気が出るのもわかる。美しいだけではなく、妙な色気があった
エチゼンはヒヤが出演したというAVを無性に観てみたくなった
しかし、すぐにその欲望を打ち消した
心の底から悲鳴が聞こえてくるくらい苦しんでいる人を目の前に、そんなイヤらしいことを考えた自分を軽蔑した
「それで、そのネットニュースを見てAVに出ていたことがバレたんだ?」
ヒヤが頷いた
「それで、どこからか俺がプッシールームで働いてることを聞き付けたみたいで…」
何か嫌なことを思い出したのか、ヒヤがまた身をすくめた
エチゼンにはヒヤの背中をさすってやることしかできなかった
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