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第52話 ソマリの秘密②

「そういえばゲームって…」 先に食べ終えたヒヤが切り出した 「あ、コレコレ!」 エチゼンは公開前の自作のアプリゲームを見せた 「ほのぼの系RPGなんだけど、やったりする?」 ヒヤは画面を凝視して、 「こんなゲーム知らない」 と呟いた 「とーぜん!俺が作ったんだもん」 「え?!」 ヒヤがキラキラした目でエチゼンを見た 「うん、それでテストプレーヤーしてほしくて呼んだんだけど…」 半分嘘で半分本当である あの場で放り出すわけにはいかなかったが、まさかゲームに食いつくとは思わなかった エチゼンが来月リリース予定のゲームは、【妖怪探偵】というもので、探偵の男性が様々な妖怪の力を借りて、猫探しや、学校の怪談、はたまた殺人事件などの難事件を解決しながら商店街の町興しをするというものだ 「グラフィックきれいだね。キャラデザとかも君がやったの?」 『君』 に違和感があった エチゼンが固まっていると、 「あ、ごめん。名前知らなくて…プッシールームのスタッフ…の人…だよね?」 エチゼンは唖然として、 「そこから?!」 と聞き返した 「え、うん…もしかして全然知らない人だ…したか?」 「いやいや、スタッフで合ってる!合ってるけ・ど・も!もし違ってたらどうしてたの?!」 プッシールームのビルにはタトゥースタジオやソープランド、スナックなど様々な業種の店が入っている どんな人間が出入りしているかもわからない状態でよく知りもしない人の家にノコノコついてきたのかと思うと、エチゼンは他人の事ながらゾッとした 「ヒヤくんって、もしかして、そういうの抵抗ない?」 「まあ…元々AVやってたし…」 「それにしても危険すぎない?!そういうことだけじゃなくて色々さ…」 気がつくとヒヤが指の皮を剥いていた 「だめ!」 エチゼンは慌ててヒヤの手を掴んだ ヒヤの顔を見ると、とことん傷ついたような救われたような、複雑な表情を浮かべていた 「あのさ、サタゼンジってどんな知り合い?」 ヒヤがビクッと肩を震わせて、指を唇に持っていった 「そいつ、こないだ店に来たんだろ?」 エチゼンが追及すると、ヒヤは震えながら爪を噛んだ エチゼンはその手をそっと握った 握っていないとヒヤは爪と皮を剥いてしまう それだけいまのこの状況がヒヤにはストレスなのだろう 「ほんと、何があったの…」 エチゼンは、この痛ましい心の持ち主をなんとか救ってあげたいと思った ※※※※※※※※※※※※ 「ゼンジは弟なんだ」 暖かいコーヒーを淹れてあげると、ヒヤは落ち着いたようだった 「俺の本名は佐田冷次(さたれいじ)って言うんだけど、ちょっと前までレイって名前でゲイビに出てて」 「ゲイビ…?」 「君はノンケっぽいもんね」 ヒヤは寂しげに笑った 「てか俺の名前、越前浩介だけど…」 「コースケ?」 「そう」 ヒヤはエチゼンの名前を胸に刻み込むように頷いて 「コースケはそういうの観たことある?」 AVは観るには観るが、普通の男女モノ… いや、普通とは言いがたかったが、少なくともゲイビは範囲外だ 「俺は、いわゆるウケって言って…」 「ウケ…」 それならわかる プッシールームのプレイヤーの中にも『ウケ』や『タチ』がいるからだ 「俺がウケに目覚めたきっかけが、弟のゼンジなんだ」

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