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第51話 ソマリの秘密①

「ヒヤくんにサタゼンジのこと聞くんですか?」 プレイヤーが全員帰った後がエチゼンとマサトの作戦会議の時間となった 「オーナーからはあえて刺激するのもよくないから様子を見るよう言われた。ただ、サタゼンジがまた店に来るようなら断ってもいいって」 「そんな簡単に断れますかね。あのウェイ、逆上するんじゃないんですか?」 「お前の偏見すごいな…」 そうは言ってもあの身なりでは、そういうことを起こしても不思議ではないとエチゼンは思った 「まあ、俺は単なる清掃スタッフですからカンケーないですけど、マサトさん、受付で殴りかかられてもやり返せます?」 偏見がどーのと言われたから少し意地悪して言い返してみる マサトにはしっかりと効いたようで、「う~ん…」と自信なさげに唸った 「いざとなったらスタンガンですね。それじゃあお先に」 エチゼンはリュックを背負って店を出た プッシールームが入るビルにはエレベーターがない エチゼンがリズミカルに階段を降りていると、3階と2階の間の踊り場にうずくまっている人影があった 「あれ?ヒヤくん?」 30分前に帰ったはずのヒヤだった 「こんなところでどうしたの?体調でも悪い?」 エチゼンはヒヤに近づいて初めて、足元に爪が散乱していることに気がついた 「あ…」 エチゼンは踏み出した足を引っ込めた ヒヤはそれを見ると、スッと立ち上がって階段を降りていった 「ヒヤくん!」 エチゼンは条件反射的にヒヤの肩を掴んだ ヒヤが足を止めた 「ごめん!俺…」 「やっぱり気づくよね」 「え…」 「俺、やっぱりおかしいよね?」 振り返ったヒヤの目はぼんやりと淀んでいた エチゼンはとっさに、 「ヒヤくんって、ゲーム好き?」 と聞いた ヒヤの目の淀みが一瞬で引いていくのをエチゼンは間近で目撃して嬉しくなった ※※※※※※※※※※ エチゼンはロードバイクで出勤している 自宅のアパートはロードバイクを飛ばして20分の距離にあるため、終電後まで働けているのだ だが、今夜はヒヤが一緒だ 新宿5丁目の交差点まで歩いてタクシーを拾った エチゼンは古いが味のあるアパートに住んでいる 学生の頃から惰性で住んでいるが、昨今のレトロブームでいつの間にか他の住民が皆オシャレビトになっていたときは驚いた 「散らかってるけど、てきとーに座ってください」 エチゼンは床に散乱している服や本を適当によけて、ヒヤが座れる場所を作った タクシーに乗る前にコンビニで買った弁当を取り出して電子レンジに入れる コンビニでエチゼンが、「好きなものを選んでいいですよ。てかコンビニだけど」と声をかけると、ヒヤは棚の前を行ったり来たりして、最後に118円の鮭おにぎりを差し出した (なにこの理想の彼女みたいな行動) そう思ったことは内緒である エチゼンはソワソワした気分を紛らわすために、冷蔵庫から缶ビールを2本取り出し、1本をヒヤに差し出した するとヒヤは首を振って、 「ごめん。俺SSRI系の薬飲んでて、お酒飲むとダウナーになるから…」 「えすえすあーるあい?」 「うつ病の薬」 「あ…」 ビルの踊り場の時と同じように微妙な空気が流れた するとヒヤはおにぎりのフィルムを剥がしながら、「大丈夫。慣れてるから」と呟いた トトトトトトトト エチゼンはヒヤに悟られないよう、テーブルの下で必死に指を動かしてSSRIを検索した (選択的セロトニン再取り込み阻害薬) 日本語で見ても何のことやらわからなかった エチゼンは鳥のようにおにぎりを啄むヒヤを見た 聞きたいことは山ほどあったが、どれもセンシティブ過ぎて触れることすらできない エチゼンは諦めて、テーブルの下でスマホを手放すと弁当を食べた

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