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第131話 猫の涙の色③

「早速反響があったよ」 タキはガラスに寄りかかって座った 「ゲーム会社で働いてる友達がゲームにしたいんだって」 「あの話をゲームに?面白いことを考えるね。ユウナはどう思う?」 タカユキはワンドリンクで頼んだコーヒーを手にガラスに寄りかかった 背中を合わせて座るとお互い顔は見えないが、接してる面が多いからか、1時間も座っていると体温が伝わってくる その温かさがタキは心地よかった 「私は結構いけるんじゃないかと思ったんだけど。でもエロゲって言ってたから、【喪に喘ぐ】の方かな?」 【喪に喘ぐ】は【猫の涙の色】のひとつ前に発表した、タカユキをモデルにした官能小説だ 「興味は湧くけど恥ずかしいな。エロゲってやったことないし」 「俺も」 タキはハッとしてタカユキを見た タカユキはタキを振り返らずに、「そんなに心配しないで。ちゃんとわかってるから」と言った 「俺は別に構わないよ。ユウナがいいならね。俺が書いた話じゃないし」 意外な答えだった 本を書くときも賛成してくれたり、タカユキはこういうことには積極的なようだ 「そう?じゃあもう少し詳しく話を聞いてくるね」 「でも、そしたらユウナがゲームをプレイする人たちにそういう目で見られるのか」 タカユキが黙り込んだ タカユキがモデルと言うことは、ヒロインはもちろんユウナであり、プレイヤーたちが疑似恋愛に興ずるのもユウナということになる 「嫉妬する?」 「するねえ」 タカユキが振り向いた気配を感じ、タキも振り向いた 「俺のモノだって証拠見せてくれたらいいよ」 タカユキがガラスの向こうからタキの下半身を指差した ※※※※※※※※※※ 「タキさん!」 平日の昼間、エチゼンは業務時間内にタキと待ち合わせした ゲーム化に当たっての相談である あくまでも相談であり、権利関係を掌握している出版社の方にはメールで概要を伝えてあり、明日、担当者と面会の予定だ 「エチゼン、元気そうだね。といってもこないだマサトさんの結婚式で会ったばかりだけど…」 「俺はともかく、タキさんのご活躍拝見してます」 タキはエチゼンの挨拶とスーツ姿に目を細めた 「しっかり社会人やってるんだね」 「そうですね。半年以上になりますからそれなりに」 一緒にミナミの店に向かう 「ミナミさんの店があって助かりました。俺は地方出身者だし、社会人経験も少ないから、どこからも出やすくて雰囲気のいい店ってよく知らなくて」 確かにミナミの店は都心でどこからでも出やすく、街の雰囲気もいいし、客層も落ち着いている 表通りから一本裏に入っているから混雑しすぎることもないため、時間を気にせずゆっくりできる その日、ミナミはいなかったが、ミナミから言われているのかアイナが代わりに対応してくれた 「まさか、話を聞いてくれるとは思わなかったので嬉しいです」 わざわざミナミが空けておいてくれた窓際の二人席に腰を下ろした 「それはこっちのセリフ。ゲーム化の話がくるなんて思ってなかったから。でも、俺もエチゼンだから話聞いてもいいなと思ったんだよ」 「えー…なんか照れます」 「話を書くにあたってモデルがいるからね。ある程度事情を知ってて考慮してくれるならって感じかな」 「その事情は聞いても大丈夫ですか?」 エチゼンは仕事用のタブレットを取り出した タキはタカユキのことは特定されないよう話したが、エチゼンなら気づいたかもしれない 「てか、エチゼンがエロゲってあんまり想像つかないな。自作ではそういうの作ってなかったろ?俺もやってみようかな。そしたら…」 エチゼンがストローで吸っていたアイスコーヒーを吹き出した 「ちょちょちょちょっと待ってください!エロゲって何の話ですか?」 「え、だってヒヤくんが…」 「・・・」 「・・・」 頭を抱えたエチゼンを見て、タキは笑いを噛み殺していた

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