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第142話 両手に猫②

「計算できてたら、こんな使えねえやつになってないっての」 「…」 「アキラの未来がうらやましかった。そもそもアキラとは魂のレベルが違うんだ。俺らは最初から付き合っちゃいけなかったんだ」 「そんな…」 エチゼンはかける言葉が見つからなかった いつも自信に溢れていたコノエが、こんなに小さく弱々しく見えるなんて 「でも、惹かれ合っていた瞬間は絶対にあった。それだけはわかるから別にいいよ」 コノエが立ち上かると、 「ここはエチゼンのおごりな。これで昨日の電話のことは許してやるよ」 と言って店を出ていった その数日後、コノエはプッシールームを辞めた ※※※※※※※※※※ 高級ホテルにはあと一歩足りない、どこにでもありそうなシティホテルの一室で、壮馬(そうま)は滑らかな白い背中に舌を這わせていた 身体の関係はもう3か月以上続いている 友達からゲイ向けのAVを観せてもらったときから(男もイケそう)と思ってはいたが、まさかここまでハマるとは、壮馬自身も驚いたし、同時に恐怖を感じていた 「やべ…止まんねえ…」 部屋に入ってから2時間以上()れては出し、抜いては()れるを繰り返している 最近では、これを週1以上ヤらないと、そわそわして仕事に集中できない まるで麻薬だ 「そーまあ…もっと…もっとお」 友達に観せてもらったAVを完コピした光景が目の前に広がっていた 壮馬はヒヤの小さくてしまった臀部を引き寄せた どんなに激しくしようと、ヒヤは気持ち良さそうに喘いでくれる それが壮馬の自尊心を満たす セックス中のヒヤの喘ぎ声は大きめだが、ガチャガチャ甲高い女の声よりは耳心地がいい もうヒヤなしでは、仕事や生活はおろか、息することすらできない身体になっていた 「今日はカレピはいいの?」 「うん。出勤って言ってあるから」 結合したまま抱き合って、普通の会話をする 「プッシールーム、俺も行ってみたい」 「そう言って俺以外のやつ指名したりして」 「するわけないじゃん」 「どうだか」 ヒヤは顔を上気させながら壮馬のモノを引き抜くと、壮馬の前で脚を広げた ヒヤの中から壮馬が出したばかりの精液が流れ出た ヒヤはその中に自分の指を挿れた さっきまで壮馬のモノが入っていた穴は、指3本などあっさり吸い込む 「店ではそうやってオナニーしてるんだ?」 「そ」 「じゃ、金払わないとな」 「いらない」 お金のことは何度か持ちかけたことがある 俳優の壮馬とプライベートでセックスしたがる相手なんて、何か裏があるか、本命として付き合いたいかのどちらかだ だから、金はいらないと言われると、壮馬の不安は一層掻き立てられる まだお金を要求された方がマシである 壮馬もまた、ヒヤのような人間がいることを理解できない 身体は壮馬、心はエチゼン ヒヤは心と身体を別々に満たすことが可能な人間だった だからヒヤは、エチゼンから別れ話をされて、初めて自分から壮馬に連絡したのだった 壮馬はヒヤから連絡がきたら、すぐにブロックして会わないつもりでいた 一度受けてしまって粘着されたら面倒だし、相手からの連絡を受けてノコノコ出ていくなんてプライドが許さなかった だが、実際は会ってしまったし、彼氏と別れを告げられて憔悴しきっているヒヤを見たら、嫉妬と苛立ちと独占欲で掻き乱されて、頭がおかしくなりそうだった 身体を許したということは、自分にも多少なりとも好意があると思っていた なんなら次の彼氏の最有力くらいに思っていた だが違った ヒヤはコースケという男にしか興味がなかった ※※※※※※※※※※※ いつもならホテルに入ったら2時間ぶっ続けてセックスをするのに、今日はひたすら泣きわめくヒヤをなだめていた 「で、どうしたいの?俺、こう見えても忙しいんだけど…」 「知ってるよ!わーん」 もはや声を出すだけで涙が出るらしい 「もう諦めなって。そんなに好きなら彼氏の幸せ考えてやんなよ。別に浮気したってわけでもないんならさあ…」 「見捨てられたんだよ?!」 「そりゃあ、こんだけ浮気してたらなあ…それにお前めんどくさいし」 壮馬はヒヤの手首を盗み見た 地雷臭はするものの、だいぶ前の傷であることはわかっていたから触れてこなかったのだ 「それ、彼氏のお陰で止められたんでしょ?」 その時、ヒヤは初めて壮馬の存在に気づいたように何度もまばたきした 「気づいてたんだ?」 「まあ…」 ヒヤは左手首の傷を触ると、 「これも、コースケが愛してくれた証なんだ」 「そいつ、いいやつなんだな」 壮馬の言葉にヒヤは満面の笑顔でうなずいた ※※※※※※※※※※※※※ 別れ話をしても、すぐに追い出すことなどできず、ヒヤとエチゼンの同居生活は続いた 最初、エチゼンはなるべくヒヤに会わないようにしていたし、ヒヤ側からも会おうとする気配はなく、見事にすれ違いの日々が続いた まるで昼と夜でひとつの部屋を交代して使っているだけのような関係がひと月近く続いた だから、すっかり油断していた

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