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第160話 猫たち忍び足①

午後9時 西新宿で5本の指に入るホテルのロビーで、タキはハセと待ち合わせをしていた 待ち合わせ場所の連絡があったのはほんの1時間前で、ホテルを指定してきたのもハセだった ※※※※※※※※※※※ 渋谷のバーで、ハセがタキを狙っていると聞かされたとき、それを逆手にとれないかと提案したのはタキである 「いいのか?」 マサトが聞いた 「そのために呼んだんでしょ」 タキはコタローを見た 自分はともかく、全く関係のないコタローまで呼ばれたということは、自分とコタローを巻き込んだ皮算用あるということだ 「悪いな」 「いいですよ」 「危険はないようにする」 「そうしてください。俺、彼氏できたんですよね。めちゃくちゃイケメン。心配かけさせたくないんで」 「長谷川さんから聞いてる」 「コソコソ噂話してたんですか?ヤらしいなあ」 そんな会話をしたのが遠い昔のようだ ※※※※※※※※※※※ 「クロタキさん」 名前を呼ばれて振り返ると、スーツ姿のハセが立っていた 一見、どこにでもいるビジネスマンのようだが、身に付けているもののえげつなさで、まともな職業ではなさそうなことはすぐにわかった 「どーも」 「やば。ま正面から見るとほんと美人。風俗店で働いてたなんて信じらんねー。知ってたら行ったのに」 ハセに座る気配がないため、タキは立ち上がってハセの後についていった 「あんまり音沙汰ないから長谷川をせっついちゃった。忙しいのに予定を空けてくれてありがとね」 言っている言葉は一見まともそうだが、(じつ)がない どういう方法でいくのが正攻法なのか、タキには見極めがつかなかった ハセはすでにチェックインしてあるのか、まっすぐにエレベーターに向かった 「でも正直意外だったんだよね。お金に困ってるわけじゃないんでしょ?やっぱりプッシールーム(ああいう店)で働いてるってことは、こういうの好きなんだよね?」 格式高いホテルのエレベーターにおいて、ハセの存在は異様だった 会話の内容を聞いてしまった他の客の方が気を使っている始末である タキはハセの話を無視し、部屋がある階に到着するのをひたすら待った

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