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後輩アルファはベータな俺のうなじを噛みたい 18 甘い時間の終わり | 緑虫の小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
後輩アルファはベータな俺の...
18 甘い時間の終わり
作者:
緑虫
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18 甘い時間の終わり
朝陽
(
あさひ
)
の家で過ごした年末年始休暇は、それはそれは甘いものだった。 一緒に買い物に行く時は手を恋人繋ぎにされ、エレベーターのような密室に入った途端にキスされる。 道路を歩く時は車道側は絶対歩かせてもらえないし、店員に話しかけられただけでスッと背中に庇われた。おい、相手は男だぞ――と思ってたら、女性店員にも同じことをしていたので、朝陽にとって俺に近づく他人は全員警戒対象らしい。そこ、睨みを利かせない。アルファに睨まれてみんなビビってんじゃないか。そこまでして守らなくても、俺は大丈夫だぞ? 「外は危険が一杯ですから、やっぱり家が一番ですよね? ね、誉さん?」 なんて大型わんこ系な雰囲気で言われたら、無理して外に出るのもなあって思うあたり、俺も大分朝陽にヤられてるのかもしれない。 食事は、基本家メシ。朝陽は後輩の癖にすぐにお金を出そうとするし、俺は俺で先輩だから出そうとして「先輩後輩じゃなくて恋人なのに……!」と争いの元になることが分かったからだ。 料理は並んで一緒に作りもしたけど、「包丁は危ないので誉さんはレタスを千切って下さい」とか簡単な作業しかさせてもらえなかった。俺は料理が苦手だから有り難いは有り難いけど、何もしない罪悪感ってのは残る。 結局、散々主張して、食洗機に皿を並べる作業は俺が担当させてもらえることになった。だけど皿を並べるだけで「誉さんの並べ方綺麗です!」とか褒められるんだぞ。元々自己肯定感が高くない自覚があった俺は、細かく褒められることに慣れていない。 どうもこそばゆくて「そんな小さなこと、褒めるなよ」と伝えたところ。 「なに言ってるんですか? 誉さんが僕にやってきてくれたことじゃないですか!」 と、朝陽に「本気で大丈夫?」みたいな顔で驚かれた。 「……俺、こんなんだったか?」 首を傾げていると、朝陽が背後から俺の腰に手を回して抱きつく。……おい、もう硬くなってるモノが当たってるぞ。 ようやくガーゼが取れてかさぶたが痒くなってきたうなじに、朝陽が唇を押し当ててきた。あれから、朝陽はうなじを噛むことはなくなった。代わりに自分の腕を噛んでいるのを見た時は思わず悲鳴を上げたけど。「誉さんの乱れる姿を見ていると噛みたい欲がどうしても」とにへらと笑いながら語ったので、俺は奴のこめかみを拳でグリグリしてやった。乱れる姿ってなんだよ。勘弁してくれ。 それでも凝りない朝陽がちゅ、ちゅ、とうなじにキスを繰り返しながら、教えてくれた。 「前も言ったと思いますけど、みんなアルファはできて当たり前って思うのが普通なんです。だけど誉さんだけは、単純な作業でも僕ができるとひとつひとつ褒めてくれました。僕がどれだけ嬉しかったか、分かりますか……?」 「え? だって、できたら普通は誰だって褒めるだろ?」 特に不安な新人相手だ。褒めて褒めて褒めまくって自信を付けてほしいと考えるのが普通じゃないか? すると、朝陽がギュッと腰に回している腕に力を込めた。 「……誉さんのそういうところ、本当大好きです。だから僕も沢山褒めたいんです」 「んっ」 間髪入れず唇を重ねられても、もう驚くことはなくなった。自ら口を開いて、朝陽の熱い熱を中に受け入れ、自らも絡ませるようになった。そうすると、朝陽が嬉しそうな態度を見せるから。 朝陽が嬉しそうだと、俺も嬉しいんだ。何故なんだろう。俺には分からない。 なお、お風呂は毎日一緒に入っていた。俺が自分で洗うことは許されていない。ケツの穴から俺の俺の皮の隙間まで、手で丁寧に洗われている。毎日トリートメントまでされていて、俺の髪の毛はとゅるんとゅるんに変貌した。毛足はきちんと伸ばされるけど、やっぱり湿気を帯びるとくるんとなる。特に朝陽に抱かれる時はそれが顕著だ。朝陽がうなじを舐めまくるせいかもしれない。 手足の爪は丁寧にヤスリで磨かれ、俺はまるで自分がどこかの国の王女様になったかのような気持ちになった。ああ、快適。 だがしかし、こんなのは駄目だ。やはり懸念していた通り、こいつの恋人になる人間は己を律しないと自堕落な生活に慣れ切ってしまう危険性が高いのだ。 ということで「このままではマジで駄目人間になる」と文句を言ったら、「僕から逃げ出せないようにする作戦ですもん」と言われて絶句した。作戦? 作戦ってなんだ? 俺は何の作戦を決行されている最中なんだ? ベッドの上で最早恒例となった全身マッサージを施されていると、朝陽が色気たっぷりの声色でのたまった。 「それに、誉さんは夜に体力を取っておいてほしいですから」 「おい」 横目でぎろりと睨むと、朝陽が屈託のない笑いを見せる。 「ふふ……っ! 僕はアルファですからね、体力は腐るほどあるんですよ。だから誉さんには、僕に気持ちよく抱かれる為に体力を温存してくれないと困ります」 「お前なあ、」 「誉さん、次は前立腺マッサージいきますね」 「んおっ!? ばっ、いきなり突っ込むなよ! ……んぁっ」 この後俺は、当然のように美味しくいただかれた。 大晦日は、二人で年越し蕎麦を啜った。 朝陽が「どうしても拝みたいんです!」と頭を下げて懇願してきたので、てっきり初日の出を見に行きたいのかと思ったら、違った。俺が朝陽の上に乗って腰を振る姿を下から拝みたいと言われ、やっぱり朝陽が大型わんこにしか見えない俺は、なんとも破廉恥な年越しの瞬間を経験したのだった。よく頑張った、俺。 尚、新年を迎えた瞬間に下から激しく突かれて年明け早々イッて飛んでしまったことは、ちょっと忘れたいと思う。 初詣は、近所の神社に行った。配られた甘酒のほんわりとした甘さが、新年初っ端から連続で抱かれて疲れ切っていた俺の身体に染み渡ったよ。確かに朝陽の言う通り、俺の一日の体力は夜に全振りしないとアルファの相手は保たないのかもしれない。 結果、お参りでは「体力が付きますように」という何とも言えない願いを願った俺だった。それでいいのか、俺? ちなみに朝陽は、俺が聞く前に「僕は誉さんの心が完全に僕のものになりますようにとお願いしました」と言った。面と向かって本人に言うことか? それに俺は、毎日朝陽と過ごしている内にもう――いや、まだ結論を出すのは早い。朝陽だって俺にまだ秘密をふたつとも言えてないんだから、こいつの好きっていう感情が実は恋愛じゃなかったって可能性はまだ捨てきれないぞ。 朝陽と過ごす大型連休は、正直言ってとても居心地がよく、まるで自分の巣に帰ってきたような安心感があった。 だけど、そんな生活ももうすぐ終わりを迎える。 荷物をまとめていた俺の背後に立つと、朝陽はかさぶたも取れて新しい皮膚が浮き出てきたうなじを愛おしそうに撫でてきた。 「……嫌です」 「そうは言っても、明日は出社だからなあ。さすがに自分の家に帰らないと」 「やだ……」 俺の首に顔を
埋
(
うず
)
めてしまった朝陽があまりにも可愛くて、俺は自然と微笑む。 朝陽の頭をよしよしと撫でながら、伝えた。 「ちゃんと週末は朝陽の為に空けておく。約束するから」 「平日は? 平日は会えないんですか?」 「毎日隣に座ってるだろ」 「そうだけど、そうじゃないんです……!」 分かってる。恋愛経験が足りてない俺だって、朝陽が言いたいことは分かっていた。 そこまで求められて、嬉しくない筈がない。だけど同時に、俺は恐れてもいた。 夢みたいだった甘々の休日が終わった後、朝陽の目が覚めて「何をやってたんだろう?」となってしまったら? と。 だって、どれだけ頑張っても俺は朝陽のオメガにはなってやることができない、ただのベータにすぎないんだから。 ある日突然「やっぱり違った」と言われたら、きっと俺は傷つくと思う。それだけの濃い時間を、もうすでに朝陽と過ごしてきたから。でも、何度うなじを噛まれても、俺は朝陽の番になってやることはできない。同時に、うなじを噛ませて朝陽を俺だけに縛り付けておくこともできない。 だからやっぱり俺は、何もかも分かった顔をして「うん、分かった」って言ってしまうんだろう。 それにもし、朝陽の前に運命の番が現れたら――? 俺は何ひとつ叶いやしない。きっと、俺の存在は紙切れ一枚のように忘れられるのは、どう考えたって明らかだった。 それでもやっぱり、傷つくのは怖い。だから少し離れて、朝陽の体温を感じない時間を作る必要があると思ったんだ。 「……朝陽、ほら」 「泊まり、なんで駄目なんですか?」 「うち、汚いままだから」 「じゃあせめて、家まで送らせて下さい……っ」 朝陽が粘る。心がほっこりと温かくなるのが分かった。 「朝陽。往復したらお前の寝る時間が遅くなるだろ。帰ったら電話するから」 「……ズズ……」 とうとう鼻を啜り始めてしまった朝陽が可愛すぎて。 俺はくるりと振り返ると、白目を赤くした朝陽に自分からキスをしたのだった。
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