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宇佐美くんの動揺
「宇佐美くんっ!!」
「あっ、支社長っ! お疲れさまです」
「お疲れさまは宇佐美くんのほうだろう。どうだ? 機内では休めたかな?」
「はい。幸い、隣がいなかったので、ゆったりと過ごさせてもらいました」
「そうか、それはラッキーだったな」
荷物は先にキースに社宅まで運んでもらうことにして、俺は宇佐美くんをオフィスに連れて行った。
「みんな、聞いてくれ。プロジェクトのために本社から来てもらった、宇佐美くんだ。宇佐美くんにはこれからプロジェクト成功までの三ヶ月、みんなと共に頑張ってもらうからスムーズに仕事に入れるように手助けをしてあげてほしい」
オフィスのみんなに声をかけると、高遠くんが嬉しそうに近づいてきた。
「高遠くん、君が待ち侘びていた宇佐美くんだ。宇佐美くん、わからないことがあれば、まず高遠くんに聞くといい」
「はい。わかりました。高遠くん、よろしく」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
宇佐美くんは仕事に関してはかなりストイックだけど、ここでは無理な進行もいらない。
基本的には穏やかな性格の二人だから、お互い仕事はやりやすいだろう。
それにしても、宇佐美くんはあんなにも真摯に仕事に向き合って、それに見合った実績を上げているのだから、会長の親族だと告げても誰からも文句は出ないと思うが……やはり俺にはわからないような悩みもあるのだろうな。
それで言えば、透也も同じか。
きっと俺にはわからない苦労もしてきているんだろう。
何か悩みがあるならなんでも相談してほしいと思ってしまうけれど、まだ俺には早いだろうか。
いや、ずっと一緒にいると決めたんだ。
今日にでも透也に話してみよう。
そんなことを考えながら、自分の仕事を片付けていると高遠くんと宇佐美くんが揃って俺のデスクにやってきた。
「支社長」
「ああ、高遠くんとの話はどうだった?」
「つつがなく週明けから、プロジェクトに入れそうです」
「そうか、それは頼もしいな。そろそろ定時だ。一緒に食事でもどうだ?」
「お気持ちは嬉しいんですが、申し訳ありません。今日は早く社宅に入って体を休めておきたくて……」
「そうだな。それがいい。またプロジェクトが始まってから、食事の機会を設けよう」
「ありがとうございます」
「ああ、そうだ。宇佐美くんに話しておきたい話があるんだ」
そういうと高遠くんは失礼しますと言ってすぐにその場から去った。
別にいてくれても構わなかったが、高遠くんはこういうところの気が利く。
「何かありましたか?」
「いや、そんなに大事 でもないから心配しないでいい。社宅からこの支社に通う際の送迎についてどちらかを選んで欲しいんだ」
「どちらか、と言いますと?」
「今日空港まで迎えに行ってくれたキースを宇佐美くんの専属ドライバーにして彼の車で送迎してもらうのと、宇佐美くんに専属護衛をつけて、一緒に徒歩なり自転車なりで通勤するかどちらかを選んで欲しい」
「えっ? 専属ドライバーか、専属護衛、ですか? そこまでしていただかなくても社宅から支社まで歩いても30分ほどですし、危険はないかと……」
「そうはいかない。本社からの通達なんだ。それを無視するわけにはいかない。歩きたいなら、専属護衛をお願いするから週明けから君と一緒に行動してくれるよ」
「流石にそれはちょっと大袈裟すぎるので……あの、車での送迎でお願いします」
「ふふっ。そういうと思ったよ。実は私も護衛をつけてはどうかと言われたが、送迎にしたんだ。だから宇佐美くんだけ特別扱いなわけじゃないよ」
「なんだ、支社長も同じなんですね。ホッとしました」
穏やかな笑顔を浮かべる宇佐美くんは、きっとこちらに来る前に会長に聞いて知っているんだろう。
俺が宇佐美くんの出自を知っていることは。
でも、まさか俺が透也のことも、そして二人が再従兄弟であることも知っていて、さらに俺が透也の恋人だとは想像もつかないだろうな。
「じゃあ、キースに話をしておくから一緒に行こうか」
「はい」
宇佐美くんと共にロビーに下りると、すでに透也が俺を待っていた。
「杉山さんっ」
「と……田辺くん」
いつもなら大智と呼びかけてくる透也がわざわざ苗字で呼んだのは、隣にいる宇佐美くんに配慮したからだろう。
でも透也に苗字で呼ばれるのはなんとなくむず痒い。
それくらいもう名前で呼ばれるのに慣れてしまっているんだ。
笑顔で駆け寄ってきた透也に、俺の隣にいた宇佐美くんは驚きを隠せないようだった。
どうやら透也がこちらに出張に来ていることは聞いていなかったようだ。
「あ、あの……彼は……?」
「ああ、えっと……」
なんて言おうかと透也に目をやると、
「笹川コーポーレーションのL.A支店に短期で出張に来ています田辺です。出張期間中、同じ社宅を使わせてもらっている関係で杉山さんにはよくしていただいているので、行き帰りはいつも一緒にしているんですよ。その方が車も一台で済みますしね」
といかにもな理由を述べている。
「あ、ああ。そうなんですね。私は、今日この支社に来ました宇佐美です。これから3ヶ月ですがよろしくお願いします」
とりあえずは納得した様子の宇佐美くんが手を差し出すと、透也はそれをキュッと握った。
宇佐美くんが突然の出来事に戸惑っているのが見えて、宇佐美くんに黙っているのが心苦しいなと思ってしまった。
本当、申し訳ない。
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