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腕いっぱいの花束に、胸いっぱいの恋歌を p32

 逞しい肉体がぼくへとのしかかってくる。  そうするとぼくは神経まで圧迫され、欲情の重みで押しつぶされて、呼吸すらままならなくなる。宗太に抱かれている、この瞬間の苦しさが、ぼくはとても好きだ。  この刹那に込められた、宗太の熱量、欲望、劣情。  それらにぼくの神経は()らされ、()がされて、欲情の芯に火が灯る。  しっかりと味わうように全身の肌をくまなく愛撫されれば、もう何も考えられなくなって、脳梁の奥のほうがとろりと溶かされ、腰に沸く甘いうごめきは潮流となって全神経を灼きながら全身を巡ってゆく。  宗太にさらわれ、思考を妨げられて。肉体だけじゃなく精神までも彼に支配されることに、ぼくは陶酔を覚え、恍惚となる。  情熱的に唇を求められる。その瞬間も好きだ。  そっと舌を差しだせば、吸われ、噛まれ、上へ下へと絡められて、ぼくはその荒々しさに応じるだけで精一杯になる。  耳朶にもキスを繰りだされ、柔く噛まれれば、ぼくは軽い悲鳴をあげていやいやと甘えてしまう。  ぼくの窄まりを宗太が柔らかくする。アレの予行みたいに指を出し入れする。  それだけでぼくは、このあとにやってくるめくるめく快楽のときを予感して、びくびくと体をわななかせ、下肢を反応させるのだ。  ――なのに、やっぱり今夜は。  いつものようにならない。  全身の肉がとろけそうな、あの高揚感が来ない。  これから思うさま宗太と抱き合うのだという、灼熱の愉悦が、なんとなく足らなくて。快楽をヴェールでいたずらに邪魔されているようなもどかしさに、ぼくは奇妙な苛立ちを覚えていた。 「愛してる、佳樹」  そんなぼくを感じとっているのか、いないのか。ぼくの首筋から顎先へと舌で登りつつ、宗太が呟く。 「あ、ぁん…、」  ぼくは、首をのけぞらせながらいつもみたいな甘い声を出してみた。声を出せばいつも通りになれるかもしれないと思ったけれど、だめだった。  初めて宗太の前で演技をしてしまった。すごく嫌な気持ちになって、すぐに後悔した。  ぼくの中央は半ば屹立している。  もう少しだ。もう少しの集中で、この愉悦に没頭できる。  他は何も感じず、ただ頂上へとのぼりつめる、あの淫蕩な快楽に溺れることができる。  もう一度、宗太がきつく唇を重ねてきた。そうしながらぼくの乳輪をまさぐり、乳嘴を摘まむ。  そこはぼくの一番感じるところ。もう、宗太もどこをどうすればぼくがどう乱れるかを知りつくしている。 (嫌――やめて)  なぜ、ぼくはこんなことを思ったのだろう。  キスが深まり、宗太の舌先がぼくの上顎をくすぐってくる。  指で秘所をえぐられ、胸の蕾をもてあそばれながらそうされれば、普段ならばぼくのものは痛いほど反り返り、雫を垂らしているところなのに。 (こんなふうにごまかされたくない)  だってこんなのは違うだろう。  今の宗太の頭の中は、全部がぼくで占められているわけじゃない。  不思議と、それがぼくにはよく分かる。ぼくだから分かる。宗太は今、ぼくじゃない誰かのことを、ほんの少しだけ考えている。 (イヤだ。ぼくだけにして)  ぼくの中で、もう一人のぼくがわがままな子供のように叫ぶ。  なんでそんなふうに考えるんだ。宗太は今、こんなに一生懸命にぼくを愛そうとしてくれているじゃないか。こんなにもひたむきに奉仕して、情熱的に求めてくれているじゃないか…。これほどの幸福の中で、どうしてそんなふうに感じてしまうんだろう――――「宗太は、本心では唯輔を抱きたいんだ」、なんて。

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