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第4話 夢の続き

 ——寝るのが、怖い。  昼の間の穏やかな時間さえ、夜の記憶がちらついて、落ち着かない気分になる。  はっきりした恐怖よりも、何か得体の知れないものがそこにある、その感覚の方がよほど怖かった。  知らずに済むなら、知らないままでいたい。  そしてこんな夢、もう見なくなればいい。  そう思っていた、ある晩。蘇芳は初めて、いつもと違う場面から始まる夢を見た。 「はい、それなら、このままあっちの方へ行くと、」  蘇芳は、見知らぬ旅の人に道を聞かれていた。母親に頼まれてお使いに行った、帰り道でのことだ。満開の桜が綺麗で、上を見上げてばかりいたから、最初は声をかけられたことに気づかなかった。  目の前の男の顔は影になっていて、よく見えない。この辺りでは見ない服装だな、と蘇芳はぼんやり思っている。  何度も同じことを聞かれ、訝しく思いながらも蘇芳が答えていると、いきなり目の前が真っ暗になった。  頭を掴まれ、抱えられて引きずられているのだと分かった時には、ガサガサと藪を分ける音が耳に入り、木の枝葉と思しきものが頬や腕に当たる感触がする。  やがて唐突に視界が明るくなったが、うつ伏せに投げ出されていて手足の自由がきかない。  必死で首を捻って周囲を見れば、大柄な男が数人、自分を取り囲んで立っている。その中に、先ほど蘇芳に道を聞いてきた男がいた。  桜に気を取られていた蘇芳は、その男だけでなく見えないところに何人も後をつけられていたことに気づいていなかったのだ。  これから一体何をされるのか、自分を見る男たちのぎらぎらした目が恐ろしくて、頭が真っ白になる。  次の瞬間、自分の身体が火傷をしたように熱くなった。  ‪—‬—あっちへ行け、僕に触るな。  そう必死に思ったその時だ。  ぼう、ぼうっと火の玉のようなものが現れた。それはみるみるうちに恐ろしい鬼のような生き物になって、男たちを取り囲む。  ひい、と一人からひきつれた悲鳴が上がり、男たちは蜘蛛の子を散らしたように逃げ出した。  火の玉はさらに現れ、群れとなった鬼たちは、逃げ惑う男たちを追って次々に村の往来へとその巨体を現した—— 「ミソラ、さま、おれ……」  悲鳴をあげて飛び起きた蘇芳に応えるように現れたミソラは、涙をぼろぼろとこぼしながら必死になって言葉を紡ごうとする蘇芳の表情をじっと見つめた。  ミソラの様子がいつもと違うことに、蘇芳は漠然とした不安を覚える。  ミソラの顔には何の表情も浮かんでいなくて、蘇芳にはその氷のように研ぎ澄まされた美しい顔立ちが何か恐ろしいもののように感じられた。  ひたと見つめられ、言葉を発することも躊躇われて、息をすることさえ忘れかけた頃、ふっとミソラを取り巻く空気が緩んだ。 「そうか、思い出してしまったのだね」

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