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第73話 これからを一緒に
「痛みはないか」
夜通し抱き合ったまま、まどろんではまた睦み合い、熱に浮かされたように互いを貪った。
こうして繋がって初めて、欠けていたものが補われたような、足りないところが埋まったような、初めて知る感覚に満たされる。
——つがいって、こういうことだったんだ……。
やがて空が白み始め、早起きの鳥たちの鳴き声で薄く目を開けた蘇芳の視界に、間近で蘇芳を見つめている晴弥の金の目が映る。すっぽりと腕の中に収まるように抱き抱えられて眠っていたらしい。朧な記憶は、もう出るものもなくなり、中だけで何度も高みに上らされたところで途切れていた。
問われて己の身体に意識を向けると、まあ酷使したのだな、とわかる痛みや軋みが主張してきて蘇芳は苦笑いした。
「うん、……まあ、それなりには」
でも、嬉しいのだ。この言葉にできない、他の何ものでも代えがたい、満たされた感覚を晴弥に伝えたくて、蘇芳は目の前の胸元に頬擦りをした。
発情もすっかりなりを潜め、しかし今までにない穏やかな温かさがとくん、とくんと体内に巡っている気がする。
「……」
なんだか晴弥が妙に固まっているように思って見上げると、なんとも言えない表情で蘇芳を見下ろしている。
「どうしたの」
「……、いや、お前、そういうことするようなやつだったかと思って」
指摘されて、ハッとする。何も考えず、思い切り甘えていた。言葉遣いだって、交わし合った情の濃さに何もかも吹き飛んでしまって、甘ったれそのものだ。今まで手を伸ばしたくてもそうできなかったもどかしさの反動が、一気に来たのかもしれない。
緩みきっていただろう顔がじわじわと熱くなる。
「ぅうう」
今更取り返しもつかず、胸元で唸る蘇芳の頭に、温かい手のひらが降ってきた。
「ああ、いや、そうじゃねえ」
焦ったような晴弥の声に、そっともう一度目線を上げると、あさっての方を向いている輪郭がほんのり赤い。
「……なんかお前が、可愛く見えた」
ぼそり、とこぼされた言葉の破壊力に、今度こそ蘇芳は唸りながら胸板に頭突きをした。
いつまでもその場にとどまるのも、ミソラや他のあやかしたちがいつやってくるかと思うと落ち着かなくて、とりあえずどこか落ち着けるところへ行きたいという蘇芳の願いに、すっかり着物を着込んだ晴弥がぬっと手を差し出す。
「?」
「さすがに自力で歩けねえだろ」
ばつの悪そうな顔で言われて、蘇芳も固まる。事実、身体を清めるのも着物を着るのも晴弥の手を借りたし、立ちあがるどころか、腰から下に力が全く入らない。
羞恥で暴れたくなるのを堪え、晴弥の手を取った。
「よ、っと!」
「え!?」
てっきり肩を貸してくれるものと思ったのに、片腕で抱え上げられて、蘇芳は目を白黒させる。
「肩につかまってろ」
「わ、わかった……」
自分を軽々と抱え上げられる晴弥の膂力に若干の羨望を抱きつつも、どこか胸が甘く痺れた。
——俺、なんか、全然違う生き物になっちゃったみたい。
つがいだから、ということを超えて、あるべきところに収まったような感覚があった。
抱えられて歩きながら、ぽつぽつと話す。
一晩で、あまりに色々なことがありすぎた。
「俺、今借りてる部屋、そのままにしてきちゃってるから、とりあえず一度は戻らないと」
「そうか」
淡々と答える晴弥の声からは感情が読み取れない。
——これから、どうしようか。晴弥は、どうしたいのかな。
どうすればいいんだろう、というのと、少しだけ、しかし確実に何かが違っている。
「山の麓に、一緒に暮らすのって、どうかな」
何もはっきりと思い描く前に、言葉が出ていた。
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