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心惹かれる
この国では次代の王となるものが、生涯の伴侶となる者にぴったりと嵌まる指輪を持って生まれてくる。
レンの指に嵌まった指輪も私が握って生まれてきたのだということ、そして、この国で必ず守らなければいけないしきたりがあり、それが生涯の伴侶以外との婚姻が認められていないこと、もし、生涯の伴侶以外の者と結婚するとこの国に災いが起こるとされていると伝えると、レンは大層驚いていた。
それくらい、自分が持って生まれてきた指輪にぴったりと嵌まる者を見つけるのはこの国にとっても重要なことなのだ。
それを聞いてレンは、自分が元の世界に戻った後の私のことを心配してくれているようだったが、正直言ってどうなるか私にもわからないのだ。
なぜならば、リスティア王国の長い歴史の中で、生涯の伴侶と婚姻することなく生涯を終えた王は未だかつていないからだ。
だから、もし、レンが元の世界に戻れば、その瞬間にこの国に災いが起こることもないとはいえない。
ただ、私が生涯独身を貫けば、災いが起こることは避けられるかもしれないがそれも絶対とは言い切れない。
レンはこの話を聞いて、自分が戻ることに抵抗を覚えているようだ。
だが、この国に災いを起こさないためにレンの気持ちを捻じ曲げてまで私のそばにいさせることはしたくない。
レンの意志で持ってこの国に留まりたいと思って貰えるようにならなければな。
いろんなことをレンに話したが、どうしても話しておきたいことがある。
「レン……これだけは信じてほしい。私にとって、レンが生涯の伴侶ということに変わりはないが、レンが指輪がぴったりと嵌まったから伴侶にしたいわけではないのだ」
私はレンを見た瞬間、身体中の血が沸き立つような不思議な感覚があった。
これを一目惚れと言うのかもしれない。
あの時、レンを見て一瞬にして心惹かれたのだ。
私にしてみれば、生涯の伴侶だから心惹かれたのではなく、心惹かれた相手が生涯の伴侶だったと言う方が正しい。
レンを心から好きになったから一緒にいたいと思ったのだ。
レンも同じように、私を見た時に何か感じなかっただろうか?
そう尋ねると、レンは少し考えながら、
「ルーファスさんを見て、今もドキドキしてますけど……それが好きっていう気持ちなのかはわからなくて……」
と恥ずかしそうに話してくれた。
私を見てドキドキすると言うのなら、おそらく私のことを意識はしてくれているはずだ。
きっとレンは今まで人を好きになったことがないのだろう。
だから、私を意識していることに気づいていないのだ。
そうだとすれば、まだ勝算はある。
レンが元の世界に戻る方法を調べるにはしばらく時間がかかるだろう。
その間に私のことをもっと好きになってもらえれば、レンの意志で私のそばにいたいと言ってくれるかもしれない。
決してレンが元の世界に戻ることを邪魔はしない。
元の世界に戻れる方法があるなら必ず返してやる。
だから、その間だけ私にもチャンスが欲しい。
それだけだ。
レンに調べる間、私の部屋で生活を共にするようにというと、私が国王だからと遠慮しているようであったが、私は国王の前にレンの伴侶となるべき相手なのだ。
そんな私がレンと離れて過ごすなどあっていい訳が無い。
私の生涯の伴侶を一人で居させるなんて、とんでもないことだ。
あまりにも感情が昂って大声を出すと、レンがびくりと身体を震わせた。
ああ、こんなにも小さな身体を怖がらせてしまった。
慌ててレンのそばに寄り謝ると、レンは驚きながらも許してくれた。
「レンがこの部屋で生活するにあたり、さっき会ったクリフにレンのことを話してくる。しばらく一人で部屋で待っていられるか?」
「はい。大丈夫です」
「レン、いいか。絶対に外に出てはいけないよ」
「ふふっ。大丈夫です。勝手に出歩いたりしませんから」
「そうか、よかった。ああ、一人でいる間、時間を持て余すかもしれないな。寝室の隣に書斎があるが、好きに本を読んでくれていていいぞ」
「はい。ありがとうございます。あ、もしできるなら、絵を描いて待っていたいのですが、そんな道具はありますか?」
「そうか……レンは絵描きだったな。本格的な道具は後で揃えてあげよう。今は紙とペンでもいいか?」
「はい。嬉しいです」
私は書斎の棚に置いていた少し厚めの紙と墨ペンを渡すとレンは嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「絵が描けたらぜひ見せてくれないか?」
「ちょっと恥ずかしいですけど……ルーファスさんにだけ見せるなら、いいですよ」
「――っ!」
恥じらいを見せるレンの表情にドキドキが止まらなかった。
書斎で絵を描くと言うレンをその場に残し、私は部屋を出るとちょうど部屋に来ようとしていたレナルドと部屋の前で会った。
「陛下。どこかへお出かけでございますか?」
レナルドは、城内では、二人っきりの時の気楽な話し方から一気に公式の態度に変わる。
「クリフと話がしたいから、すぐに執務室に呼んでくれ。それから、彼を部屋に一人で残しているから、部屋から出ないように見張りをつけてくれ。だが、決して中には入るな。何かあればすぐに私を呼びにくるように。そう指示をしておけ」
「はっ。承知いたしました」
私が執務室に着くとすぐにクリフがやってきた。
「ルーファスさま。お待たせいたしまして申し訳ございません」
「お前に話しておかねばならぬことがあって呼んだのだが、想像はついているか?」
「はい。先ほど、ルーファスさまが抱きかかえていらっしゃったあのお美しいお方のことでございますか? 大事なお客さまだと仰っておいででございましたが」
「そうだ。あの者はお前が待ちに待っていた私の生涯の伴侶だ」
「――――っ!!!!!」
私の言葉に、クリフはそのまま倒れてしまいそうなほど目を丸くして驚いていた。
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