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レンの素晴らしい才能
執務室を出るとレナルドがすぐにやってきた。
「陛下。お話はお済みですか?」
「ああ。それよりも部屋の前の見張りは誰をつけている?」
「ケヴィンとルースをつけておりますのでご安心ください」
「ああ、あの二人なら安心だな」
騎士団の中でも特に腕の立つ二人だ。
しかも、二人とも騎士団に旦那がいる夫 だから、レンのそばに置いておいても決して間違いなど起こりえない。
レンの近くで警護をするものは全て夫 側の者たちで固めるとしよう。
「それでクリフとの話は?」
ふふっ。城内では常に公式の態度を重んじるレナルドにしては、ここで素の顔を出してくるとは珍しい。
よほどクリフとの話が気になっているとみえる。
「ああ、とりあえず全てを話した。レンが異世界からやってきた私の生涯の伴侶であるとな。それに……元の世界に戻りたいと話しているということもな」
「クリフは驚いていただろう?」
「ああ、そりゃあもう。最初、生涯の伴侶だとわかった時にはすぐにでも婚礼の儀を執り行おうとしていたぞ。慌てて止めたがな」
「クリフらしいな。それで、どうしたんだ?」
「とりあえず、レンが戻れる方法があるかを王家の書庫にある書物で探す。その間、レンは私の部屋で生活を共にすることにした。レンは私の大切な客人ということにしておくからな。お前もそのつもりで騎士たちに伝えておけ」
「ああ、わかった」
「そうだ、お前に話しておかないといけないことがある。きっとお前も勘違いしているだろうからな」
「勘違い? なんだ?」
「レンは21歳でとっくに成人しているそうだ」
「はっ?」
私の言葉の意味が理解できなかったのか、それとも驚きすぎて頭が追いついていないのか、私の顔を見つめたままその場に茫然と立ち尽くしていた。
「レナルド! 聞いてるか?」
レナルドの前で手を振るとようやく我に返ったが、
「ハハッ。さっきのは冗談か? お前が冗談を言うなんて」
とまだ信じられない様子だ。
「冗談じゃない。本当のことだ。数の数え方も私たちと同じ。レンは正真正銘21歳だ」
「本当なのか……。すごいな、あれで21? これぞ神の奇跡だな」
「ふふっ。確かに。だから、私がレンとどのような戯れをしていたとしても決して止めるな」
「それは……流石に限度はあるぞ?」
「何を考えてるんだ。そこまでのことは考えてない」
「ふーん」
そう言ったが、レナルドは信じていない様子だ。
まぁ、無理もない。
15年も待ち続けた生涯の伴侶と同じ部屋で共に生活をするのだ。
手を出さないでいられるほうがおかしい。
だが、私は決して最後の一線だけは越えない。
本当にレンが心から私のそばにいたいと思ってくれる日までは……。
レナルドと共に部屋に向かうと、ケヴィンとルースがしっかりと部屋を見張っていた。
「問題はないか?」
「はい。物音ひとつ聞いておりません」
「よし。じゃあ、このあとも警護を頼むぞ」
「はっ」
レンとも年が近い二人だ。
慣れればレンの良き話し相手になるかもしれんな。
部屋に入ると、しんと静まり返っている。
もしや、まだ書斎にいるのだろうか?
それほど集中しているのであれば驚かせないようにしなくてはな。
足音を立てないようにそっと書斎に向かうと、レンが一心不乱に墨ペンを滑らせ絵を描いているのが見える。
その真剣な表情に思わずドキッとしてしまう。
この表情だけ見れば、21と言われても驚きもしない。
ああ、なんと美しいのだろう。
これが芸術家の表情か。
レンの美しい横顔に魅入っていると、目の前の椅子に気づかずにカタンと音を立ててしまった。
ビクリと身体を震わせてこちらを見る。
「レン、驚かせてすまない」
「あっ、ルーファスさんですか。よかった」
「――っ!!!」
あんなに怯えていたのに、私だと知ってあんなにも安心した可愛らしい表情を浮かべてくれるとは……。
絵を描いていたさっきまでの凛々しい姿とはまた違った天使のような柔らかな微笑みに胸が高鳴る。
本当に私はレンの全てに心を奪われているようだ。
「あれから、ずっと描いていたのか?」
「はい。この墨ペンが描きやすくて楽しくて」
「レンの描いた絵を見せてくれないか?」
「描きかけですけど……どうぞ」
「こ、これは……」
レンの見せてくれた絵には、私とザカリーが描かれていた。
「なぜ、この絵を?」
「ルーファスさんとザカリーの信頼関係がすごくいいなと思って。ルーファスさんがザカリーのこと、兄弟だって言ってたのすごく素敵だと思ったので……」
ザカリーが本当に嬉しい時にだけ見せる表情が上手く描けている。
それに……この私の表情。
私はこんな笑顔をザカリーに向けているのか……知らなかった。
私とザカリーが一緒にいるのをよく見ているレナルドならきっと、この絵にものすごく共感するのだろうな。
それくらい、レンの絵は見ているだけで心が穏やかになる。
ああ、レンは人を幸せにする絵が描けるのか。
素晴らしい才能だな。
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