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レンの幸せのために

<sideルーファス> 「少し風が冷たくなってきたな。レンが風邪を引くといけない。そろそろ戻ろうか」 楽しすぎる食事を終え、暖かな日差しの中でレンと心地よい時間を過ごしていたが少し日が陰ってきた。 名残惜しいがそろそろ戻ったほうがいいだろう。 レンに声をかけたと同時にトンっと腕に何かがぶつかった。 この軽い衝撃は……。 さっと横を見るとレンが私の腕に身体を預け、すやすやと眠っていた。 ああ……レン。 こんなに無防備に可愛らしい寝顔を晒すとは……。 どこまで私に心を許してくれているのだろう。 愛くるしいレンの寝顔にギュッと心を掴まれながら、レンを起こさないようにそっと抱き上げ、私の膝の上に乗せた。 腕でレンを支えながらさっと自分の上着を脱ぎ、レンに被せた。 「レナルド、靴を」 食事の前にレンが脱がしてくれた靴を受け取り靴を履いた。 「お部屋にお戻りになりますか?」 「ああ。ベッドに寝かせてやったほうがよかろう」 「書庫で真剣に本を読んでいらっしゃいましたから、お疲れになったのでしょう」 レナルドの言葉に書庫でのレンの様子を思い出す。 確かにあの膨大な量を読み耽るにはレンの身体には負担がかかりすぎるだろう。 「そうだな。一度イシュメルの診察を受けさせたほうが良いかも知れぬ。レンにあった薬も作ってもらえるだろう。クリフ、手配を」 「承知いたしました」 クリフの言葉に頷き、羽のように軽いレンを抱きかかえたまま立ち上がり、そのまま自室へと向かった。 寝室のベッドに寝かせて、レンの艶やかな髪を優しく撫でているとレンが可愛らしい笑顔を見せた。 ああ、いつまでもこの笑顔を隣で見ていられたら私はどんなことでもできるのに。 しばらくして、部屋の扉が叩かれた。 おそらく先ほど頼んだイシュメルが来たのだろう。 レンを起こさないように寝室の外で返事をしようと思ったが、知らぬうちにレンの手が私の袖を掴んでいて、離すのがかわいそうに思える。 レンを起こさないように配慮しながら部屋の外への連絡のためのボタンを押し、 「入れ」 と声を出すと、カチャリと扉が開く音が聞こえた。 レンはまだすやすやと眠りの中だ。 ホッとしたと同時にこんな近くの声すらも聞こえないほど身体が疲弊してしまっているのだと気づく。 もっと私が気遣うべきだったのだ。 後悔しても遅いが、なんとかレンの体調が良くなるように診てもらうしかない。 「陛下。イシュメルでございます」 寝室の扉越しに小さな声が聞こえる。 「入れ」 その言葉にそっと扉を開き入ってきたのはリスティア王国一の腕を誇る王城専属医師・イシュメルだ。 この者なら、レンを診させるのも安心だ。 深々と頭をさげるイシュメルに 「この子の診察を頼む」 というと、イシュメルはゆっくりと顔を上げた。 レンの顔を見た瞬間、イシュメルはハッと表情を変え 「陛下。おそばで拝見させていただいてもよろしゅうございますか?」 と尋ねてきた。 イシュメルの様子を不思議に思いながらも頷くと、イシュメルはそっとレンの傍にいき、布団をゆっくりと捲った。 レンの小さな身体をじっくりと見つめてから、布団を優しく掛け直し 「陛下。このお方は陛下の生涯の伴侶でいらっしゃいますね? そして、この世界の者では無いのでは無いですか?」 と真剣な表情で尋ねてきた。 「イシュメル、なぜそのようなことを尋ねるのだ? お前は何か知っているのか?」 「恐れながら申し上げます。このお方の見た目が我が家に伝わるお方の特徴と酷似しているのでございます」 「見た目が……とは、どういうことだ?」 「陛下もご存じのとおり、我がスウェンソン家は代々王城専属医師として王家に深く関わりを持ち、このリスティア王国が建国されたその時代から、私たちは王家を見守って参りました。ですから、我がスウェンソン家では王家の皆さまよりも生涯の伴侶について詳しい情報が受け継がれております」 確かにそうだ。 王城の書庫にすら残っていない秘匿情報も医師であるスウェンソン家には全て残っているはずだ。 だが、我々当事者である王すらも知らない生涯の伴侶についての詳しい情報とは一体なんなのだろう? 「詳しい情報とはなんだ?」 「次代の王となられる運命を背負ってこの世に生を受ける我が国の王でございますが、このリスティア王国の長い歴史の中で25歳を過ぎてから生涯の伴侶と出逢われた王は、今までに御二方おられます。そして、そのどちらも、その出逢われた生涯の伴侶は異世界からお越しになったお方でございます」 「な――っ、それは本当なのか?」 「はい。ですから、陛下の生涯の伴侶も異世界からお越しになるのではと予測しておりました」 イシュメルの言葉に驚きが隠せない。 だがイシュメルは驚く私をよそに次々と驚くべき情報を話した。 「異世界からお越しになったご伴侶さまは、御二方とも身体が小さく、漆黒の髪色と同色の瞳を持っていらっしゃったと私どもが持っている資料にはそう記載されておりました。ですから、こちらのお方を見た瞬間にすぐに異世界から来られたお方だとわかりました」 なるほど。 そんな資料が残されているのならば、イシュメルがひと目見てレンを私の生涯の伴侶であり、異世界から来た者だと分かったはずだ。 この話が全て真実だとするならば、もしかして、レンが聞きたがっていることをイシュメルが知っているのではないか。 だが、それを聞いていいのか? もし、その方法があると知れば、私はレンに嘘を突き通すことはできないだろう。 どうする? いや、私はレンの幸せを選ぶと決めたではないか。 たとえ、レンと離れ離れになろうともレンに誠実であり続けなければいけないのだ。 私はレンのために尋ねることを決めた。 元の世界に戻る方法を知っているか……と。

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