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心からの愛
「あー、ゴホンっ。よろしいですか?」
「ああ、悪かった。それで話しておかねばならぬ事とはなんだ?」
そう尋ねると、イシュメルは真剣な表情で私を見つめた。
「これから話す事柄は陛下とご伴侶さまだけの心の中だけに留めておいてくださいませ」
「わかった」
「我が国の長い歴史の中でご伴侶さまと同じく異世界からお越しになったのは二人いると申し上げました。そのうちのお一人はご伴侶さまと同じく元の世界への帰還を希望されましたが、その方法を探している数ヶ月の間に、時の国王の熱心な求婚に心を動かされ、この世界にとどまる決断をされ、その後、お二人が一緒に息を引き取るその時まで幸せな結婚生活を続けられました」
イシュメルの言葉にレンの表情が明るくなった。
レンも同じように私のそばにいたいと言ってくれたばかりだからな。
私もこのようにレンと息を引き取るその時まで……いや、死しても尚、レンと共にありたいものだ。
「そして、もうひと方も同じく元の世界への帰還を希望されましたが、時の国王はそのことに酷くお怒りになり無理やりそのお方の身体を奪い、しかも、元の世界に戻ることがないように城の裏にある塔に幽閉なさいました。そして、あろうことか国王は側室に手を出され、その側室が懐妊したことを知ったそのお方は自らの命を絶たれたのです」
「――っ、そんな、ひどいっ」
レンが怒りに身体を震わせている。
私はそっとレンの身体を抱きしめながら、イシュメルに尋ねた。
「それで、時の国王はどうなったのだ?」
「そのお方の命が尽きたその時に、雷に打たれて側室と子ども共々お亡くなりになりました。そこから数十年もの間、我が国は神の怒りをかい、生涯の伴侶を得られる指輪を持って生まれてくる次代の王は現れませんでした。その間、王家の血筋であるお方が何人も交代で王を務めては早世され、このことに不安を抱いた国民が国外へと逃げていき、これではいけないと名乗りを上げたのが、時の国王となったサミュエルさまでございます」
「おお、サミュエル国王か」
不遇の時代を乗り越えた王として伝説となっているがまさか、こんな背景があろうとは……。
「サミュエルさまはあのお方が命を絶たれた塔に自らお入りになり、最低限の飲み物と食事だけで1年もの間、祈り続けたのです。そして、雷のような衝撃を受け失神から目覚めたサミュエルさまの手に指輪が入っていたと伝えられております」
「すごい人、ですね……その、サミュエルさまって……」
「ああ、そうだな」
私が父上から教えられた生涯の伴侶についての数々のしきたりはこの歴史を踏まえてのことだったのだ。
「この御二方でしか判断はできないのでございますが、残念ながら元の世界に戻る方法は見つかっておりません。ただ、異世界より現れた生涯のご伴侶さまをどれだけの思いで愛するか、なんの打算もなく、ただご伴侶さまのことだけを思いやることができるか、そのお気持ちが巡り巡ってこの国の繁栄に繋がるということは間違いございません。ですから、私は陛下の本心をお伺いしたかったのでございます。そうしたら、陛下は自分の命をお捨てになってでもご伴侶さまを幸せにしてあげたいと仰った。それが全てでございます」
「もしかして、お前はレンが目を覚ましたことに気づいていたのか?」
「はい。私も医者の端くれ。表情を見ただけで本当に寝ていらっしゃるかどうかはわかります。ですが、ご伴侶さまにも陛下のお気持ちを知っていただく良い機会だと思ったのでございます。どうかお許しくださいませ」
イシュメルは深々と頭を下げるが、いやいや、逆によくやったと褒めてやりたいくらいだ。
お前のおかげでレンは私の思いを知って、この世界に留まってくれると言ってくれたのだからな。
「イシュメル、顔を上げてくれ。私はお前に感謝しかないのだ。私とレンの縁を繋いでくれたのだからな。そうだろう……レン」
腕の中にいるレンにそう問いかけると、レンは少し顔を赤くしながら
「はい。イシュメルさんのおかげです……」
と言ってくれた。
「そう仰っていただけて安心いたしました。それでは少しご伴侶さまの診察をさせていただきましょうか」
「何か心配なところがあるのか?」
「少しお顔の色が悪いようですから、毎日少し長めの睡眠が必要ですね。食事はお身体もお小さくていらっしゃいますので、朝昼晩と時間は気にせずにいつでも食べられるものを食べたいだけ召し上がるようになさってください。ご伴侶さまの体調に合わせた薬を調合いたしますので、それを毎日必ずお召し上がりくださいませ」
「わかった。私が責任持ってレンの体調を管理する」
そうはっきりというと、イシュメルはにっこりと笑みを浮かべ、レンは嬉しそうに私の手を握った。
「それから、ご伴侶さまのお身体のお話で一番大切なことでございますが……」
「なんだ? 早く申せ」
「はい。陛下とレンさまのご体格差を考えますと、お身体をお繋ぎになるのは1ヶ月はお待ちいただく必要がございます」
「なに? それはどういうことだ?」
「ご伴侶さまと同じく異世界から来られたお方もご伴侶さまのように小さく華奢なお身体をされておりました。十分に解しても最初は少し裂けて寝室が血に塗れたと伺っております。ですから、私が後でお持ちいたします薬で1ヶ月ほど拡げられてから、初夜を迎えられることをお約束いただきたいのです」
イシュメルの真剣な表情に私はわかったというしかなかった。
昨夜風呂場で見たレンの身体は確かに小さかったから、それも当然だろう。
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