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最高の日

<sideルーファス> イシュメルが寝室に入っていって、どれくらいの時間が経っただろう。 いや、おそらくそれほど経ってはいないはずだ。 だが、私にとっては数時間にも数十時間にも感じてしまうほど長く苦しい時間だった。 私たちの相性が良く、レンの身体が私を受け入れるのに問題がないとわかって、私は天にも昇る心地だった。 レンと身体を繋ぐことができることになったということだからではない。 もちろん、その気持ちがないわけではないが、それよりも何よりもレンとすぐにでも夫夫になれるのだという事実が私を喜ばせたのだ。 あれほど明確に私のそばにいてくれると言ってくれたレンだったが、このひと月の間にもし心変わりでもしたら……。 いや、それこそ元の世界に帰る方法が急に見つかりでもしたら……。 レンが私のそばから消えてしまうのではないかと不安な気持ちも少なからずあったのだ。 それはレンを信頼していないということではない。 ただ、私が弱いだけだ。 自分がこんなにも弱い人間だとは思っても見なかった。 だからこそ、レンとすぐにでも夫夫になれるとわかったらすぐにでも正式な夫夫になりたかったのだ。 そう。 レンを私の元に物理的にも精神的にも繋ぎ止めておきたかった。 もしかしたら、レンはそんな私の打算的な思いに気づいていたのかもしれない。 だから、すぐにでも結婚できるとあっても了承してくれなかったのだろう。 しかも今、レンは私に話せないことをイシュメルに話している。 イシュメルが医師だから、なんでも話すといいと言ったのは私だ。 それでも、イシュメルに嫉妬してしまう。 ああ、私はなんと狭量なのだろう。 だから、レンに即決してもらえないのだ。 ああ……レンの気持ちをもう一度私に向けるためなら、ひと月でも一年でも待ってみせよう。 それでレンがそばにいてくれるのなら我慢くらいしてみせる。 一人で扉の前でただひたすら待ち続けていると、悲観的なことしか考えられなくなってくる。 まだ、レンに結婚が嫌だと言われたわけではないのだ。 そうだ、もう少し希望を持ってみてもいいのではないか? 心に少しだけ希望の光を照らしながら待っていると、鉄の扉のように私とレンとを引き裂いていた寝室の扉がカチャリと音を立てて開いた。 「――っ、イシュメルっ! レンは? レンはどんな様子なのだ?」 「陛下。ご自分でお確かめください。では、私は失礼いたします」 意味ありげに笑みを浮かべながら、イシュメルが立ち去っていくのを見送りながら慌てて寝室に飛び込み、恐る恐るレンの名を呼ぶと 「ルーファスさんっ! 僕、すぐにでもルーファスさんと結婚したいっ!!」 突然レンがそう叫んだ。 ――ルーファスさんと結婚したいっ!! 私の頭がその言葉を理解した瞬間、身体が無意識に動き、気づけばレンを強く抱きしめていた。 「ルーファスさん、即答できなくてごめんなさい……」 「そんなことはどうでもいい。レン、無理はしていないか? 私のために無理をしているならすぐに言ってくれ。今ならまだ我慢できる」 「ルーファスさん……どうしていつも僕のことばっかり……。優しすぎです!」 「レン、私は優しいんじゃない。ただ怖いだけなんだ。レンに無理をさせたら私の前からいなくなるんじゃないかと……」 「ルーファスさん……そんな心配しないでください。僕はいなくなったりしませんから……」 「レン……」 レンの優しい言葉にさっきまで悲観的になっていた心が温められていく。 もう大丈夫だと思いつつも、腕の中に抱くレンを手放せずにいる。 それは、レンがイシュメルと何を話したのかが気になって仕方がないからかもしれない。 私はゴクリと息を呑み、意を決してレンに尋ねた。 「レン……イシュメルと、何を話したのだ?」 「えっ、あの……それは……」 途端に言葉に詰まったレンに慌てて、 「いや、なんでもない。気にしないでくれ。無理して話すことはないんだ」 というと、レンは少し緊張している様子だったが、私の目を見つめて口を開いた。 「あの、僕……ルーファスさんに、聞いて欲しいです……」 「レン、本当に無理をしなくていいのだぞ? 私はレンが結婚したいと言ってくれただけで十分幸せなのだから」 「いいえ、僕が聞いて欲しいんです! でも、恥ずかしいから……こう、させてください……」 そういうと、レンは私の胸元に顔を隠しゆっくりと話し始めた。 「僕……怖かったんです……」 ああ、やはりそうだな。 いくら身体が受け入れられると聞かされても、レンのあの小さな身体に私の凶悪な愚息を受け入れようとするにはかなりの覚悟が必要だろう。 「レン……私は、無理に身体を繋げぬとも――」 「違うんですっ! そうじゃなくて……僕は、ルーファスさんの指が……その、気持ち良すぎて……すぐにおかしくなってしまって……」 えっ? 今、レンはなんと言ったのだ? 「指を入れられるだけであんなに気持ちよかったから、ルーファスさんのおっきいので中を擦られたら一体どれだけ気持ちよくなっちゃうんだろうって……ドキドキして……。でも、あんまり乱れすぎて……その、ルーファスさんにはしたない姿見られて……嫌われちゃったら、やだなって……。だから、僕……イシュメルさんにあんまり乱れないように快感を感じなくなるような薬があったら欲しいなって思って……」 私のモノではしたなく乱れすぎて嫌われたくない? これは本当にレンが話していることなのか? 私の願望が見せている夢ではないか? そう思ってしまうほど、レンの話が嬉しすぎてもうどうにかなってしまいそうだ。 「レンっ! 其方を嫌いになることなどあるはずがない! 私のモノではしたなく乱れる? そんな姿見せてもらえるなど私にとっては褒美でしかない! レンが私の愛撫に狂ってくれるなら私はどんなことでもしたいと思っているくらいであるのに……!」 「……イシュメルさんの、言った通りだ……」 「イシュメルの? レン、どういうことだ?」 「ルーファスさんが、僕を嫌いになんてなるわけないって……僕が考えていることは全て取り越し苦労だって」 「ああ、その通りだ。だが、悪い。今は他の男の名前は聞きたくない」 「えっ? わっ!」 私はイシュメルに嫉妬心を抱きながら、レンを強く抱きしめた。 「レン、改めて私の想いを伝えよう。私はレンのどんな姿を見ても愛しいと思うだろう。それは生涯の伴侶だからではない。レンのことだけを心から愛しているからだ。ずっとそばにいてほしい。レン……私とすぐに夫夫になってくれないか?」 緊張で胸を震わせながら問いかけると、レンは大きく頷いて 「はい。僕をルーファスさんの(つま)にしてください」 と笑顔で言ってくれた。 ようやく私たちは夫夫になるのだ。 私は今日のこの日を一生忘れることはないだろう。

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