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レンの願い

<sideルーファス> 風呂で愛し合って寝室に戻ると、綺麗に整えられた寝具と共にベッド横のテーブルには新たな薬と栄養剤、そして飲み物が置かれていた。 おそらく我々のためにというよりは、レンのためにイシュメルが用意してくれたものだろう。 解すのに使ったあの薬には栄養剤も含まれていたから、レンの体力も数日は持っていたがそろそろ新しい薬が欲しいと思っていたところだった。 本当に気が利く。 風呂で無理をさせたからか、意識を失って眠ったままのレンに口移しで薬と栄養剤を飲ませ、私も同様に薬を飲みしばしの休息をとる。 寝ている間に体力も戻り、また起きたら愛し合うことができるだろう。 サラサラとした肌触りのいいシーツにレンと裸で横たわり、布団をかけるとレンが私の胸元に顔を擦り寄せてくる。 その嬉しそうな顔を見るだけで私がどれほど幸せを感じているか、レンはわかっているだろうか……。 レンと出会ってから、思いを伝えてから、レンに思いが伝わってから……どれほどこの日を待ち侘びたことか。 レンの中で蜜を飛ばした時、今までに感じたことのない快感を味わった。 本当にレンと身も心も交わってひとつに溶けてしまったような不思議な感覚だった。 レンと出会ってからもう離れることなどできないと思っていたが、レンと愛し合い、身体を繋げた今、さらにレンなしで生きていくことなど考えられなくなった。 このまま一生、私はレンと共に生き、レンと全ての時間を共有するのだ。 命が尽きるその時まで……。 愛しいレンを腕に抱き、幸せを噛み締めながら私は眠りについた。 それから目を覚まして愛し合い、そして、軽く食事を摂ったり風呂に入ったり、そして、心の赴くままにまた愛し合う。 本能のままに動き続けるケモノのような生活を続けて、寝室に篭ってから一週間ほど経っただろうか。 ようやく愚息も落ち着きを取り戻し、愛し合う時間よりも二人で話をする時間のほうが長くなってきて、私たちの初夜は終わりを迎えた。 成人を迎えてから十五年、伴侶が見つかるまでに我慢し続けた愚息はこの一週間で少しは満足してくれたようだ。 レンにそっと触れられただけで一気に完勃ちすることは少なくなった。 ふふっ。 愚息も私もようやく大人になったようだな。 「ルーファス……何を笑っているの?」 「ああ、レンとこうしていられるのが幸せだなと思っていたんだ」 「うん。僕も幸せだよ」 レンはこの一週間の間にすっかり私への敬語も抜け、対等に話せるようになった。 それは私を軽んじるようになったわけではない。 レンが私を心から伴侶だと思ってくれた証なのだ。 私はずっとこうでありたいと願っていたレンとの関係にようやくなれたのだ。 幸せすぎて怖いくらいだ。 こんな思いをするのも人生で初めてのこと。 レンは私にいろんな感情を与えてくれる。 「レン……名残惜しいが明日の朝には日常に戻るとしようか」 「もうそんなに経っちゃった?」 「ああ、ここに入ってもう一週間か……」 「えっ? もうそんなに?」 レンは私との時間が楽しすぎて時間の感覚がわかっていなかったようだ。 途中何度も意識を失って眠っていた時間も多かったから当然と言えば当然か。 「ルーファスとずっと一緒だと時間が経つのもあっという間だね」 「寂しく思ってくれるか?」 「もちろん。だって……ずっとくっついていたから、一緒にいるのが当たり前になっちゃったもん」 「ああっ、レン! そうだな、私たちは一緒にいるのが当たり前だ。だから、日常に戻ったとしてもできるだけ私のそばにいてくれるか?」 「たとえばどうしたらいい?」 「執務の時はそばにいてほしい。そうだな、仕事も手伝ってもらえたら嬉しいな。これからは私の伴侶として、そしてこの国の王妃としての仕事もある。それもお願いしたい」 「それは心配しなくても僕にできることはなんでもやるつもりだよ! ルーファスの伴侶になるって決めた時から……。でも、一つだけお願い聞いて欲しいんだけど……」 珍しいな。 レンが私にねだるとは…… ひとつだけと言わず、レンの願いなどなんでも叶えてやるのに本当に奥ゆかしい子だ。 「なんでも言うがいい。何か欲しいものでもあるのか?」 「ううん、違う。父さんと母さんのことなんだけど……」 「お父上とお母上のこと? なんだ、どうした?」 「ここで働きたいって言ってたでしょう?」 「ああ、そう言っていたな。わざわざ働かずとも満足いく生活は保証するがな」 「多分、父さんたちは何もしないのは耐えられないって言いそう。それくらい仕事するのが大好きな人たちなんだ」 レンはそう笑っていたが、きっと両親が働いている間は一人だったのだろう。 だから、ずっと絵を描いていたのだ。 あの美しい絵を描けるまでに黙々と絵を描き続けていたに違いない。 「それで何か考えでもあるのか?」 「実は父さんも母さんも料理が趣味で……。だから、ここでお店でも出せたらきっと楽しく過ごせると思うんだ。ルーファスなら、父さんたちのお店とか出すのを手伝ってもらえるかなって……」 自分のための願いではなく、両親のために……。 本当にレンは心が美しいのだな。 「レンの気持ちはよくわかった。ならば、後でお父上とお母上に話を聞いてみよう。お二人がそれを望むなら、私は喜んで力を貸そう。私たちの幸せのために、わざわざこの世界まで来てくださったのだからな」 「わぁーっ! ありがとう、ルーファス。大好きっ!!」 「礼ならば、レンからキスをしてきて欲しいのだが……」 「――っ! ルーファスったら……」 あれほど愛し合ったと言うのに、キスをねだっただけでこんなにも恥じらいを見せるのだから、本当に可愛くて仕方がない。 落ち着いたと思っていた愚息はまた一気に昂りを見せる。 それからレンが蜜を二度溢すまで私たちは愛し合い続けた。

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