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夢叶うとき

<side月坂蓮> 目の前のパンケーキを一口食べてすぐにわかった。 ここのところ食べていたバターとは違う、懐かしいバターの味がするなって。 でも本当に父さんたちが作っているとは思っても見なかったから、父さんたちの味だとわかった時は嬉しかった。 食事を終えて、父さんたちを部屋に呼んで話をしたいと言った僕にルーファスは、 「レン、我々が両親の部屋に行くとしよう」 と言ったのだ。 本当なら、国王であるルーファスの方がわざわざ部屋に出向くことはしないんだと思う。 でも、わざわざ父さんたちを僕たちの部屋に呼びつけない理由は、ルーファスが父さんたちを大切に思ってくれているからだ。 父さんたちが厨房から部屋に戻ったと報告があり、僕たちは揃って<暁の間>へと向かった。 「蓮っ!! 元気にしていたの?」 「母さん、何言っているの。一週間前に会ったばかりでしょ?」 「でも、あれから随分と忙しかったんでしょう? あのあと、またすぐに会えるのかと思っていたら婚礼の儀の後に一週間もやらなければいけない行事があるなんて……確かに、一国の王さまを支える王妃になるのだからすべきことはたくさんあるんでしょうけど、蓮は身体もそんなに強くないんだから心配していたのよ。なんだかあの時より少し痩せたみたいだし……」 「――っ、そ、そんなことはないよ! ちゃんと食事も摂っていたし、大丈夫。元気だから安心して」 「ふふっ。そうね。蓮の顔を見たら安心したわ」 母さんたちには婚礼の儀の後のやらなきゃいけないことについては詳しいことは伝えてないみたい。 よかった……。 ルーファスと身も心も繋がったことは僕にとって幸せなことであることには間違いないけど、流石に両親に知られるのは恥ずかしい。 しかも一週間も愛し合っていたなんて……。 そっと隣にいるルーファスに視線を向けると、何も言わずにただ微笑んでいてくれてホッとした。 「そ、それよりも、今日の朝食だけど、あれ、父さんと母さんが作ったんでしょう?」 「おおっ、気づいたか?」 「当たり前だよ!! うちのレモンバターは絶品だもん!」 「蓮が気づくかと思っていたが、本当に気づいてくれるとは……。嬉しいものだな」 「ねぇ、ルーファスも美味しいって言ってたよね?」 僕がそうルーファスに問いかけると、ルーファスは嬉しそうに言葉を返してくれた。 「ああ、今まで食べたことのない爽やかなバターの香り。てっきりうちの料理人の腕が上がったのかと思っていたのだが、まさかお父上とお母上の手作りとは……いやはや本当に驚いたぞ」 「でしょう?」 父さんたちの料理をルーファスが褒めてくれたのが嬉しくて、つい得意げに言ってしまった。 「レン、あの話だが私からしていいのか?」 「あ、うん。お願い」 あの話っていうのは、僕がルーファスにおねだりしたやつ。 一度父さんたちの料理を食べてもらってからと思っていたけれど、今日ああやって父さんたちの料理を食べられる機会に恵まれたし、それで父さんたちさえ良ければって言ってくれたんだ。 「――というわけで、お二人さえ良ければ、私がすぐにでも王都に店を出せるように手配するが如何だろうか?」 「そんな……っ、私たちがお店だなんて……よろしいのですか?」 「我々の幸せのためにお二人はこちらでの生活を選んでくれたのだ。だからこそ、私はお二人がここで幸せに暮らしていけるように手助けをするのは当然のことだと考えている。だから、少しでも店をする気があるのなら、受け取って欲しい」 「国王さま……ありがとうございます。店を出すというのは私たちにとっては本当に夢物語でございました。まさかそれがここで叶うとは驚きではございますが、精一杯頑張らせていただきます」 「そこまで重圧を感じずとも、気楽にやってもらえたら良い。なぁ、レン」 「ルーファス、ありがとう」 「レン、私に礼など要らぬ。私とレンはもう夫夫なのだからな」 「ふふっ。ありがとう」 嬉しくてルーファスにピッタリと寄り添っていると、 「ふふっ。本当に蓮は国王さまが好きなのね。母さん、本当に安心したわ」 と嬉しそうに言われて、恥ずかしくなってしまった。 やっぱり夫夫になったとはいえ、母さんたちの前でルーファスと仲良くするのは当分慣れそうにない。 「早速、お二人の店についての希望を聞くとしよう。どんな店にしたいか、話を聞かせてもらっても良いだろうか?」 ルーファスがそう話すと、父さんと母さんの目が輝いた。 叶わない夢だと思っていたとはいえ、時々話に聞いたことがある。 こんな店を持ってみたかったんだって。 「あっ、僕……父さんたちの店の希望を絵に描くよ。思い思いに話してみて」 前に用意してもらった紙と墨ペンを取りに行こうとすると、すぐにルーファスがクリフさんを呼び出して持ってきてくれるように頼んでくれた。 その紙に僕は父さんたちの希望を詰め込んだ店の絵を描いていった。

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