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最後の夜
あれから三ヶ月。
王都の一番いい場所にあったお店が閉店することになり、その店をルーファスが父さんたちのために買い取ってくれた上に、国中から優秀な大工さんたちを集めてリフォームしてくれたおかげで、父さんたちの希望を詰め込んだ理想通りのお店があっという間に完成した。
お店ができるまでの間に、父さんたちは新しくできるお店でどんな料理を出すかを悩んでいたようだったけれど、ここでもルーファスがお城の厨房にある食材もなんでも好きに使っていいと許可を出してくれたおかげで、色々な試作品を毎日のように作ることができた。
ルーファスもいつも試食に参加してくれて的確な感想を述べてくれる上に、レナルドさん経由で騎士団の皆さんからも試作品を食べた感想を集めてくれて、父さんたちは感謝しまくっていた。
そんなこんなでオープンから一週間。
ここの食材を駆使して作った和食が殊の外、人気を集めているらしい。
あまりの人気に父さんと母さんだけではお店が回らないので、僕も手伝おうかなとルーファスに話して見たけれど、流石にルーファスに止められてしまった。
まぁ、そうだよね。
父さんたちの息子である前に、僕はこの国の王妃としての仕事もある。
ルーファスと一緒に視察に回ることもあるし、まだまだ勉強もしないといけないこともたくさんある。
そんなんだから、お店で働いている余裕なんてどこにもない。
二十四時間じゃ足りないくらいだ。
だけど、ルーファスもお店の人気っぷりに父さんたちの忙しさを心配してくれて、レナルドさんに若い騎士さんたちを毎日二、三人手伝いに行かせるように頼んでくれた。
正直僕が手伝うよりも騎士さんたちに手伝ってもらう方が父さんたちの負担が減って嬉しそうだ。
僕はちょっと複雑だけど……。
それ以外の騎士団の人たちもボリュームたっぷりで美味しい父さんたちの料理が気に入ってくれたみたいで、よく食べに行ってくれるから態度の悪い人やクレームをつける人なんかも現れないし、安全にお店ができているみたい。
元々仕事をするのが好きな両親だったけれど、今は、大好きな料理を楽しんでやることができて、しかも美味しいと言ってもらえて、騎士団の人たちと楽しく仕事ができたりお話しできたりして、毎日がとても楽しいみたいだ。
そんな中、父さんたちは明日からこのお城を出て、お店の二階で生活を始めることになった。
ずっとお城でお世話になるのも申し訳ないらしい。
ルーファスが気にしないでいいと言ってくれたけれど、父さんと母さんのたっての希望だと言うと受け入れてくれたみたいだ。
最後の夜、僕は家族水入らずの夜を過ごした。
「蓮がここにきてくれたおかげで、私たちも第二の人生を楽しく過ごせているよ。ルーファスさんにはなんとお礼を言っていいか……」
父さんと母さんはルーファスのことをずっと国王さまと呼んでいたけれど、もう家族なのだからとルーファスに言われて、ルーファスさんと呼ぶことで折り合いがついたらしい。
母さんはまだ時々国王さまと呼んじゃうみたいだけどね。
「父さんたちを残してこっちに来ちゃったことだけが心配だったから、父さんたちがこっちに来てくれて本当よかったよ。ルーファスもいつか何かのきっかけで僕があっちに戻っちゃうかもしれないと思って不安だったんだって。でも父さんたちがこっちに来てくれたから、僕がもう二度とあっちに戻ることがなくなって喜んでるんだよ。だから、父さんたちの願いはなんでも叶えてあげたいって言ってる」
「お前は本当にいい人に出会えたな。蓮が幸せなら男同士でも気にしないとは思っていたけど、実際にルーファスさんに会うまでは心配していたんだぞ。無理やり結婚させられるんじゃないかとか、力で押さえつけられて言うこと聞かされてるんじゃないかとか正直思ってたんだ。だって、こっちの人たちはみんな身体がでかいだろう?」
「まぁ、確かにね。ルーファスは逆に、初めて僕を見た時十歳くらいだと思ったみたいだし。二十一だって言ったら驚いていたよ」
「蓮は向こうでも小さい方だったからね。顔も童顔だし、そう思われるのは無理ないかもね」
「だが、神殿でルーファスさんと一緒にいる蓮を見てホッとしたよ。本当に幸せそうだったからな」
「うん、本当に幸せ……」
「お前が幸せなら、私たちはずっと幸せだ。母さんと仲良くあの店を続けて、ルーファスさんにも恩返しするつもりだから、お前はこの国のために、そしてルーファスさんのために頑張ってくれ」
「ありがとう。僕、頑張るよ」
そろそろ時間かなと思っていたタイミングで部屋の扉が叩かれ、ルーファスが入ってきた。
「レン、そろそろ休む時間だぞ」
「うん、ちょうど戻ろうかと思っていたところだったよ」
「そうか、ならよかった」
過保護なルーファスがこうやって時間を作ってくれただけで僕は嬉しい。
おかげで父さんたちとゆっくり話もできた。
ルーファスはにっこりと笑みを浮かべながら、
「ミノル殿、ヤヨイ殿。其方たちはレンの両親だから、外で暮らし始めてもいつでもきてくれて構わない。この部屋は其方たち専用でいつでも泊まれるように整えておくからな」
父さんたちが国王さまに丁寧な言葉遣いをされるのは困ると言ったせいで、ルーファスは父さんたちに対してレナルドさんと話すような言葉遣いに変わった。
うん、やっぱりこっちの方がしっくりくるな。
父さんたちはここが自分たち専用の部屋だと聞いて驚いていたけれど、嬉しそうだ。
何度もお礼を言って、翌日、父さんたちはお城を出て行った。
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