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楽しい計画
<sideルーファス>
「レン。明日はせっかくの休みだから、湖に行かないか?」
私の突然の誘いにレンは全く嫌な顔ひとつせず
「わぁっ! 行きたい、連れてって!!」
と嬉しそうにはしゃいでくれた。
ああ、レンのこういうところが好きなのだ。
「ねぇ、湖までどうやっていくの?」
「そうだな、レンが疲れるといけないから大きな馬車を出そうか」
「えーっ」
「んっ? 馬車は嫌か?」
珍しいな、レンが反対するとは……。
「ううん、そうじゃなくて……僕、ルーファスと一緒にザカリーに乗りたいなって思って……」
「――っ!」
「あの日、ルーファスに抱っこされてザカリーに乗ってすごく安心したから。それに久しぶりにザカリーにも会いたいなって……だめ?」
「ダメなわけないだろう! もちろん、いいよ。一緒に乗ろう!」
「あっ、でもザカリーが二人も乗せたら疲れちゃうかな? 僕も自分でお馬さんに乗った方がいい?」
可愛らしく首を傾げながら尋ねてくるが、そんな心配など杞憂だ。
「大丈夫だ。レン一人くらい、ザカリーにとっては私を乗せるのと対して変わらないよ。それにレンは馬に一人で乗ったことがないのだろう?」
「うん。あの時が初めてだったから」
「なら、一人では絶対にダメだ。私と一緒に乗ろう」
「ふふっ。わかった。じゃあ、ルーファス。乗せて行ってね」
「ああ、明日が待ちきれないな」
久しぶりの休日を思い出の湖で楽しい時間を過ごせればと思っていたが、思いがけず、2人で騎乗して遠乗りできることになり、楽しみでたまらない。
クリフに豪華な昼食を作ってもらうとしようか。
本当ならば、二人っきりがいいが、流石に国王と王妃である我々がここから二人だけで出かけるのはレナルドが許しそうにないからな。
荷物持ちに連れて行くにはちょうどいい。
明日のために早く寝ようとベッドに誘い、軽くレンの身体と触れ合ってから眠りについた。
レンが深く眠りについたのを確認して、私はこっそり寝室を抜け出した。
ベルを鳴らし、クリフとレナルドを呼び明日のことを話した。
最近では私よりもかなり心配症になっているクリフが、レナルドと三人だけで出かけることに難色を示していたが、レンが楽しみにしているから中止にさせるのはかわいそうだと言うと、渋々ながらも了承してくれた。
その上、レンのために豪華な食事を頼むと、クリフは急いで厨房へと向かった。
「クリフのレンくん贔屓は相当なものだな」
「ああ。もはや私より、レンで動いているようなものだからな」
「クリフが一番お前の伴侶が見つかることを望んでいたから嬉しいんだろう」
「そうだな。だから、私もクリフがレンを大切にしてくれていることを嬉しいと思ってるよ」
「それで、急にどうして湖なんだ?」
「忘れたのか? 明日は……」
「ああっ、そうか。なるほど。それは行かないとな」
どうやらレナルドもピンときたようだ。
そう、明日は私とレンにとって重要な日だ。
だから、あの湖にレンを誘ったんだ。
「明日はそのままあの小屋に泊まる予定だ」
「まぁお前が泊まらずに帰るとは思ってないが、レンくんは知ってるのか? 泊まりって」
「いや、まだ話してない。その方が喜ぶだろう?」
「まぁな。レンくんはあの小屋の方を気に入っていた様子だったからな」
「やっぱり、お前もそう思うか?」
「ああ。ミノル殿やヤヨイ殿の話では、あちらでの家はそれほど大きくないようだからな。あの小屋の方が慣れ親しんだ家に似てるんじゃないかと思ったんだ」
そう。
ミノル殿とヤヨイ殿が早々にこの城から出て、あの店で暮らしたいと言い出したのもこの城があまりにも広すぎて落ち着かないと言っていたからだ。
それに何より、使用人に世話をされる生活がどうも慣れないらしい。
とすれば、きっとレンも同じ思いを持っているはずだ。
あの小屋には何人たりとも近づけないことになっているから、レナルドの警護も必要ない。
あの小屋なら使用人をおかずともレンと二人だけで居られる。
きっとレンも心から落ち着けるのではないか、そう思ったのだ。
この世界に来て私の伴侶、そしてこのリスティア王国の国母となり、毎日忙しいのに関わらずいつも笑顔を絶やさずに私の隣にいてくれるレンを少しでも休ませてあげたい。
その思いで今回の計画を考えたのだ。
「あの湖に着いたら私は城に戻る。翌日昼に迎えにくるからそれまで二人の時間を過ごすといい」
「ああ、ありがとう」
「そろそろレンくんの元に戻った方がいいんじゃないか?」
「そうだな。じゃあ、明日は頼む。ザカリーにもしっかり言い聞かせておいてくれ」
「ふっ。わかったよ」
レナルドが出て行くのを見送って、私はレンが眠る寝室へと戻った。
そして、隣に身体を滑り込ませて、レンを腕の中に抱きしめた。
私の腕の中で幸せそうな笑顔を見せるレンに嬉しくなりながら、私は明日の遠出を楽しみに眠りについた。
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