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生まれた時からの運命
<side月坂蓮>
「わぁーっ、いい天気!」
「ああ、これぞ乗馬日和だな。湖まで景色を楽しみながらゆっくりと走らせるとしよう」
部屋の窓から雲ひとつない青空と太陽が見えて楽しみだった心が更に弾む。
朝食を食べながらもワクワクが止まらなかった。
ルーファスが選んでくれた乗馬用のお揃いの服に着替えて玄関に向かうと、ザカリーがすでに僕たちのことを待ってくれていた。
「ヒヒーンっ!」
僕たちの姿を見て、嬉しそうに嘶くザカリーを見て僕はテンションが上がってしまった。
「ルーファス、ザカリーを撫でてもいい?」
「ああ、レンが撫でてくれたらザカリーも喜ぶよ」
と言いつつも、決して僕一人では行かせない。
ザカリーが絶対に暴れたりしないとわかっていても必ず一緒に行動をする。
それが結婚してからのこの三ヶ月で身についた習慣だ。
だから僕も必ずルーファスに許可をとる。
そういうと、ルーファスが全て決めているように見えるけれど、そうじゃない。
ルーファスは僕の意見を尊重してくれるし、頭ごなしに反対することは絶対にない。
ルーファスが反対する時はちゃんと明確な理由があるんだ。
僕が父さんたちのお店を手伝うことを反対されたのも、理由を言われれば納得できたし、何よりも僕が手伝ってもなんの手伝いにならないってちゃんと理解できたから。
お客さんを捌きながらボリュームたっぷりの料理を運んで片付けて……なんて、僕には無理だもんね。
レナルドさんが騎士団の方達を手伝いに寄越してくれて父さんたちもすごく喜んでたし。
ルーファスにはこうなることが最初からわかってたんだろうな。
本当に上に立つ人っていろんなことが見えてるんだな。
僕もルーファスを見習ってもっといっぱい勉強しないとね。
「ザカリー、今日は二人で乗るから重いかもしれないけど頑張ってね」
「ヒヒーンっ!!」
「ふふっ。ザカリー、自信満々な鳴き声だったね」
「レンを乗せられるんだ。張り切らないわけがないよ。さぁ、レン。私に掴まって」
軽々と抱き上げられルーファスの首に手を回すと、ヒョイっとザカリーに飛び乗る。
人を抱っこしながら馬に飛び乗るって相当すごいんだと思うけど、早すぎていまいちどうやってるのかわからないんだよね。
本当、凄すぎる。
「陛下。お供いたします」
僕たちの後ろでレナルドさんも愛馬のクライヴとすでに準備万端だけど、クライヴもレナルドさんも荷物をたくさん持っている。
「わぁっ、荷物がいっぱい……ねぇ、ルーファス、クライヴもレナルドさんも大丈夫かな?」
「ふふっ。レンは優しいな。だが、心配はいらないよ。いつもより少ないくらいだからな」
そうなんだ……。
これよりいっぱい荷物持ってるってそれはそれですごいな……。
「レナルド、出発するぞ。ついてこい」
そういうと、ルーファスはザカリーを出発させた。
久しぶりに馬に乗る僕が怖がらないように最初はものすごくゆっくりだ。
王都を通っていると、すぐに僕たちだと気づかれて声をかけられる。
だけど、決して近づいてはこない。
遠くから手を振ってくれるだけだ。
その気持ちが嬉しくて、手を振ると
「きゃーっ! 王妃さまぁ!」
と黄色い声が上がる。
その声にルーファスがさっと僕を隠し、ルーファスが手を振ると今度は
「きゃーっ! 国王さまぁ〜!」
とルーファスにさっきよりもたくさんの声が上がる。
「ふふっ。ルーファスの方が人気だね」
「何言っているんだ。みんなの目的はレンだけだよ」
「そんなこと……」
「いや、レンはいい加減自分の魅力に気づいた方がいい。レンを誰にも見せずに閉じ込めたくなる」
「でも……僕はルーファスのものだよ」
「レン……っ」
ザカリーに乗りながらギュッと抱きしめられる。
僕は本当に幸せだな。
「この辺で食事にしようか」
綺麗な湖の畔でザカリーから降りると、すぐにレナルドさんが敷物を敷いて食事の準備をしてくれる。
その手際の良さに驚かされる。
「レナルドさん、ありがとうございます。準備が手早くてすごいですね」
「ああ。騎士団の演習でキャンプの準備をするのと似たようなものだからな。レンくん、今日は料理長が張り切って食事を作っていたから好きなだけ食べるといい」
「はい。楽しみです」
「じゃあ、ルーファス。少し早いが私はここで先に帰るぞ。また明日な」
「えっ……レナルドさん?」
僕が驚いている間にレナルドさんはさっさとクライヴに乗り、元来た道を帰って行った。
「レン、食事にしよう」
「あの、レナルドさんはどうして帰っちゃったんですか? 明日って、どういう意味ですか?」
「レン、話してなかったが今日はあの小屋に泊まるつもりなんだ」
「えっ……あそこにお泊まり?」
「ああ、ここは王家所有の森で誰も立ち入ることができないようになっている。だから、レナルドの護衛も必要ない。誰の目も気にせずにレンと2人だけで過ごしたくて計画したんだ。突然すぎて怒ったか?」
「そんな、怒るなんて……。じゃあ、今日はルーファスとふたりっきり?」
「ああ、そうだ。我々だけだ」
「嬉しいっ!!」
あのお城での生活が嫌いなわけじゃない。
でも、いつでも誰かがいて……部屋にいても、外で誰かが立ってるんだと思ったら緊張してしまう自分がいる。
でもここではルーファスとふたりっきり。
誰の目も気にすることなくルーファスと過ごせるなんて嬉しいしかない。
「レン……これ、見てごらん」
「わぁっ! これ、僕の好きなものばっかり!」
「ああ、ミノル殿とヤヨイ殿に頼んで作ってもらったんだ。懐かしい味ばかりなのだろう?」
お弁当の中身は卵焼きや唐揚げ、それにおにぎりも。
僕が小さい頃から大好きだったお弁当だ。
懐かしい味をルーファスと食べさせ合いながら、湖畔でのんびりとした時間を過ごす。
なんて贅沢なんだろう。
暖かな日差しの中でお腹がいっぱいになると途端に眠くなる。
本当に僕は子どもだ。
「レン、眠いなら寝ていいぞ。ほら、膝に頭乗せて」
「うん、膝枕もいいけどルーファスも一緒に横になろう。きっと気持ちいいよ」
「そうだな。じゃあそうしようか」
そう言って、レナルドさんが残して行ってくれた荷物からブランケットを取り出し、それをかけて横になる。
ルーファスの腕枕はちょうどいい高さですぐに眠気が襲ってくる。
「最近忙しかったからな、ゆっくり休むといい」
「うん、ありがと……」
あまりの心地よさにスーッと夢の世界に落ちていく。
それからどれくらい時間が経っただろう。
「レン……」
優しいルーファスの声が耳に入ってきて目を覚ますと、だいぶ日が傾いていた。
「ふふっ。よく眠っていたな。気持ちよさそうな顔していたよ」
「ルーファス、ごめんね。もっと早く起こしてくれてよかったのに」
「いや、レンの寝顔を見るのが楽しかったから謝る必要はないよ」
「ルーファスったら」
太陽が傾いて少し寒くなってきていたのに、全然寒さを感じなかったのはルーファスがずっと抱きしめてくれていたからだ。
ルーファスの温もりに包まれてすごく熟睡できた。
「本当はもう少し寝かせたかったんだが、そろそろ時間だったのでな……」
「時間? もう帰るの? あ、でもお泊まりだって言ってたよね?」
「帰る時間じゃないよ。あっ、ほら。そろそろ始まるぞ。レン、湖を見てごらん」
「湖?」
ルーファスの声に湖に目を向けると、そこには真っ赤な輝きを放つ蓮 の花が咲き乱れていた。
「わぁーーーっ、すごいっ!!! なんで? こんなに綺麗なの?」
「今日は一年のうちで一番パドマが太陽の光を浴びて輝く日だからな。これをレンと一緒に見たかったんだ。私たちの運命の花だから……」
そう言ってルーファスは僕とルーファスの手にあるパドマの花を優しくなぞった。
「この赤は私の名前の意味そのものだからな」
「そっか。ルーファスってこんなに神々しい色のことだったんだ……。ルーファスにぴったりだね」
「この美しく輝くパドマがレンの名の意味だというのもピッタリだよ。本当にレンの花だ」
美しい輝きを放つ花。
その花が咲き乱れる湖で僕たちは出会った。
これは生まれた時からの運命だったんだ。
「レン……愛しているよ」
「うん、僕も……ルーファスを愛してる」
パドマの美しい赤い光を浴びながら、僕たちはピッタリと抱き合い唇を重ね合わせた。
もう一生離れないと誓いながら……。
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