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第13話
恐怖で飛び起きた俺は、布団の上で震えながら朝を待った。
さき「そろそろ起きてください」
「……うん……ぁあ……はい?」
暫く経った後、さきさんに優しく揺り起こされた俺は、なんとか無事に朝を迎えることができた。(朝って言っても外はまだ暗いんけどね…)
でもよかった、あれは夢だったんだ! ……そうだよな、あんなのが現実で起こるはずがない。
世の中には不思議な出来事なんてそうそうない。
ただちょっと不思議な夢を見ただけなんだ! そう自分に言い聞かせながら、俺は重い身体を無理やり動かすと、さきさんに急かされながら朝食のテーブルについた。
すると、いつもはある住職さんの食事が用意されてない事に気づき「アレ?今日は住職さん来ないんですか?」素直に疑問を口にすると。少し視線を走らせたかと思うと普段通りの笑みを浮かべ。
さき「住職様は、少々立て込んでいる様ですので、本日はお一人でお食事を召し上がり下さい」
そう言ってさきさんは、朝食をテーブルに置いていく。そんな姿を遠目で見つつ、ある疑問が頭に浮かんだ。
「あの……今更言うのもアレなんですけど。さきさんは食べないんですか?」
さき「私は、これから仕事がありますので」
普段、さきさんは住職さんの代わりとして、この寺の管理を任されているとか…。管理の他に、他のお手伝いさん達を指導する権限を与えられている為、四六時中さきさんが寺を走り回っている事はリサーチ済み。だから少し心配な気持ちにもなる。
なんだそれ! 働き者かよ⁉いつも一人で食べてるじゃん……今日に限って仕事って……。俺は腑に落ちないままパンにジャムを塗った……が、そんな俺の様子を見てさきさんは嬉しそうに微笑む。
さき「私は主に仕える身ですから、人並みに食べるわけにはいかないんです。あしからず」
さきさんはそう言って、俺の向かい側の席に座って軽く会釈をした。
「いや!俺も仕事あるっすよ!」(ほんとは何も無いけど)
さき「ふふ。そうですか、なら尚更です。私の事はお気になさらず。さぁさぁ、どうぞ召し上がって下さい」
正直、さきさんの年齢こそ知らないが、パット見年が近そうなのもあってか、どうもさきさんとは対等に会話が出来た。(失礼かもしれないけど…)
だから、俺はさきさんが俺のためを思って言ってくれているんだと言い聞かせると、仕方なくジャムパンを食べた。
……うん、美味しい。けど……やっぱり一人で食べる朝食は寂しいなぁ……。
さき「それで……本日はいかがなさるおつもりですか?」
俺が一人でもそもそ食べていると、さきさんがそんな事を聞いてきた。
「いや、まだ何も考えてないんですけど……」
(つーか、うけ言葉に買い言葉で言っちゃっただけだもな…。どうしよう)俺がそんな事を考えていたら。
さき「なら、私と一緒にお散歩行きませんか?」って、さきさんが突然そんな提案をしてきた。
「え?いいんですか?お仕事あるんじゃ……」
さき「ええ、少しでしたら…。仕事も大事ですが、今はあなたといる方が大切ですから」
「ッ!?!?!?」
(え⁉何⁉俺、プロポーズされてる⁉)
俺が変に顔を赤らめていると、それに気がついたさきさんが。
さき「あ!でも、別に深い意味はありませんよ。ずっと部屋に籠もりっきりも善くないと、住職様も仰っておりますので……気分転換にどうでしょ?」と言われて俺は落ち込むどころか 「はい、喜んで!」と答えていた。(久々の外だ!!)心躍る気持ちを抑えて、さきさんに手を引かれながら境内を散策することになった。
「あ!見てください、さきさん。あれ、なんて鳥ですか?」
さき「あれはメジロですね。メジロは渡り鳥で、春になると暖かい南の国に飛んでいくんですよ」のも知りなさきさんは、俺の質問を丁寧に説明してくれる。
「へぇー、そうなんですか」俺は興味深く聞きながら境内を歩いていくと、少し先に大きな木があるのが見えた。その木には桜が満開に咲いていてとても綺麗だ。
「うわぁ……すごく綺麗ですね……」
俺が感嘆の声を漏らしていると、さきさんが優しく微笑みながら木の下まで案内してくれた。「ほら、これがこのお寺の名物である桜の木ですよ」
「すごく立派な木ですね……。ここでお花見とかしたら絶対楽しいだろうな…」
俺が感嘆しながら見上げていると、さきさんは楽しそうに笑いながら言った。「ええ、そうね。お花見?とはどう言うものか存じませんが……桜は毎年綺麗に咲いてくれるんですよ。とても綺麗で美しい花です」俺はしばらくその見事な桜を眺めていた。すると、ふとある話を思い出した。
「そういえば、桜の木の下には人の死体が埋まっていて、桜の花が美しく咲くのは、その木の下に死体が埋まっていて養分を吸っているから…とか言う話がありますけど、アレって迷信ですよね?」
俺は冗談のつもりで言ったのだが……なぜかさきさんは少し固まってしまった。どうしたんだろうと首を傾げていると、さきさんは何か思い出したように「そんな話が…」と一言だけ呟いた。そしてそのまま黙り込んでしまったので俺は心配になって声をかけた。
「さきさん?大丈夫ですか?」
するとさきさんはハッとしたように顔を上げ、慌てた様子で答えた。
さき「え、ええ!大丈夫ですよ!すみません!ぼーとしておりました」「それなら良いですけど……さきさん、体調が悪いなら無理しないでくださいね?」
俺が心配そうに言うと、さきさんは苦笑いしながら言った。
さき「本当に大丈夫ですよ!ただ考え事をしていただけですから……」
「そうですか……?それならいいんですけど……」俺はまだ少し不安だったが、さきさんがそう言うのならとそれ以上追及はしなかった。それから俺たちはしばらく桜を眺めていたが、やがて用事があるというさきさんと別れることになった。別れ際、俺はもう一度お礼を言ってさきさんを見送ることにした。去りゆく後ろ姿を見送る俺はもう一度桜を眺める。(大きくて…綺麗に咲く桜。正直迷信だと思うこの話もきっと本当なんだろうなぁ)すると突然後ろから足音が聞こえたので驚き振り向くと、そこには一人の少年がいた。少年は驚いたような顔で私を見つめている。(ここの子供?いや、お手伝いさん?にしては、小さい…誰だろう?)「こんにちは」とりあえず挨拶をすると、彼は笑顔で応えてくれた。艶のある黒髪を風に揺らしながら、静かに俺を見つめている。俺はその美しさに息を呑む。桜の花のような儚げな雰囲気を漂わせる少年は、まるでこの世のものではないような美しさを持っていた。
「あ、あの……君は?」俺が恐る恐る尋ねると、少年は微笑みながら答えた。
??「僕の名前は…」少年はそう言うと、突然俺の両手を掴む。そしてそのまま俺を引っ張り始めた。
「えっ?ど、どうしたの?」突然のことに驚きながらも俺は彼に引っ張られるまま桜の木の下へと連れて行かれた。俺は理由がわからず混乱してると手を離し、少年は再び俺の前に立つ。そして言った。
??「貴方と友達になりたい」「えっ?」突然のことに驚きながら俺は少年を見る。すると少年は再び俺の手を取り、握り締めてきた。
??「……貴方の友達にしてください」その瞬間、桜の花びらが舞う中で微笑む少年の姿はまるで一枚の絵画のように美しく俺の心を魅了したのだった。戸惑いながらも「俺で良ければ…」と答えると、少年は嬉しそうに微笑んだ。こうして俺と少年の奇妙な出会いからの友達生活が始まったのである。(何か恋愛漫画にありそうなベタストリーだな)内心笑いながらも俺はこの少年との出会いを楽しもうと思っていた。それから俺と少年は色々なことを話した。好きな食べ物や好きな漫画やゲームなど、お互いの好きなものを言い合う内に俺たちは自然と笑いあえるようになっていき、いつのまにかすっかり打ち解けていた。(所々不審な点はあるが、素直に良い奴そう)だと思った。
「でさ~、その話がすげー面白くて何回も読み返したくらい俺のお気に入りで。でも最後は報われない話だからちょっと複雑なんだよな…」話している内に、その時の感情が蘇り暗くなる。すると、そんな俺を見兼ねて「君って凄く感情豊かなんだね」と笑った。
??「君は漫画?ってヤツがホントに好きなんだね。この手の話をしてる君、すっごく目がキラキラしてる」
「ええ⁉ ソレって子供ぽっいってことじゃんか‼」
??「そんな事ない。君はとても感情豊かで素敵…って事だよ」
何故か自分より圧倒的に年下の彼からフォローされる俺って何なの?って思うくらい俺って情けないかも…。
「俺、そろそろ帰るよ。またな」と俺は立ち上がった。
??「うん、またね」と彼は笑顔で手を振ってくれた。……が、その時、彼の笑顔を見て俺は何か違和感を覚えた。(あれ? 今、何か違和感が……)その違和感の正体に気付く前に、彼は再びニコッと笑った。「またな」とは言ったものの、また会える保証なんて何処にもない。でも、何となくだけど、また会える気がしたんだ。
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