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1.お仕事紹介します

『まお、分かったかい?』 「はい、大丈夫です。終わったら連絡しますね」 『ああ、気をつけて』 「はい。では、また」  会話が終わり、柔らかな声音の男性から『まお』と呼ばれていた青年は、スマホ画面の『終了』を指で軽く叩いた。すると、ちょうどよいタイミングで「電車がまいります」というアナウンスが聞こえてくる。まおは顔を上げて電光掲示板に視線をやり、各停電車であることを確認した。  各停とはいえ、春先の通勤ラッシュ時間帯は駅構内の人の数がすごい。既に乗車位置のラインの後ろには何人もの人が並んでおり、まおもその列に加わろうとベンチから立ち上がった。その間に尻ポケットへスマホを入れようとしたが、なぜかスルリと手からすり抜けて固い地面に落ちてしまった。 カシャンっと音がする。 (ヤバっ!?)  まおは慌てて落ちたスマホを拾った。 これでスマホが使えなくなったら、先程の通話相手に連絡が取れなくなる。そんなことになったらかなり恥ずかしい思いをこの後まお自身がしなければいけないが、そんな思いしたくないと画面を見た。とりあえずヒビは入っておらず、スマホも動いてほっと息を吐く。  しかし、落ちた時の無機質な音に数人がまおを見ており、気まずさと恥ずかしさが襲う。顔を隠すように度の入っていない眼鏡のブリッジを指で押し上げた。  こういう時、やはり眼鏡は優秀だなと思いながらトートバッグ型のビジネスバッグにスマホを押し込み、入らなかった尻ポケットを指で触って確認するとなんと指ですら入らない。よくよく触ってみれば、仕立て糸がついたままであった。 再びまおの目元が赤くなる。 (仕方ない仕方ない。普段着ないから…っ。こっちの方が初々しい新社会人、みたいな感じに見てもらえるかもだし)  皺ひとつない下ろし立ての黒のビジネススーツに身を纏い、同色のビジネスバッグを持ち、前髪は長いもののこめかみ辺りからワックスで整えた、いかにもな姿は、春の季節にぴったりだ。誰もまおが、既に社会人を2年過ぎてるとは思わないだろう。しかも、18才から仕事を本格的にしているので6年も経っており、到底『新社会人』というカテゴリーには入らない。  今日の仕事も別にスーツが必須なわけではなかったが、スーツ姿の方がまおの年齢的に怪しまれない。この時間帯に電車に長く、もしくは何度も乗らなくてはいけない身としては、会社員に見られた方が都合が良かった。  電車が停止線で停まるとアナウンスを待って扉が開く。人がぞろぞろと狭い空間から排出され、その後にまた新しい人がそこに吸収されていく。まおもその流れに合わせ、密室の中に乗り込んだ。  ぎゅうぎゅうまではいかないが、パーソナルスペースが確保できないくらいには混んでいる。まおは扉の前に立った。人がたくさんいる割にはあまり声は聞こえない。遠くから女子高生と思われる甲高い声が聞こえ、友人らしき人と楽しそうに談笑しているくらいだ。他は電車のリズミカルな音だけが響き、意外と静かなものだった。  普段電車に乗ることが少ないため、物珍しい風景を窓越しに見ると朝から寝ている人の多さに、通勤通学の大変さを思い知って、心の中で知らない人達へ「お疲れ様です」と呟く。  そんなことを考えていると再び扉が開いて、また新しい人々がなだれ込んでくる。さらに体が密着して隙間がなくなっていくと、ふわりと甘い匂いとすえた体臭が香ってきてまおは眉間に皺を寄せた。混ざった匂いがなんとも言えず、場所を変えようと視線を周りに向けるが人が密集していて動きが取れない。 降りる駅は決まっていないし、幸い各停電車なので次の駅はすぐだし、一旦降りて再び乗り直そうかなと思った時だった。 不意に、ひやり、とした空気が背後に漂う。 (っ、きた…っっ) まおは、はっとしてその感覚に神経を尖らせた。すでに匂いは感じない。 そのまま冷えた空気はぴたりとまおの背中にくっつき、さらに前の方へ移動する。 (ビンゴだな。良かった、降りなくて。1発目から来るなんて、手間が省けて助かる) 条件反射で鳥肌を立てながらもまおは動かない。ただ、ごくりと生唾を飲んで、成り行きに任せている。 すると、その冷たい感触が徐々に人の腕と手の形へ変わっていった。ややゴツゴツした節の目立つ手で、腕には毛が黒々と生えており、すぐに男性のものであることが分かった。その両手が、スーツの上からまおの腹部を撫でる。忙しない動きでスーツに皺を作っていくとすぐにボタンを外して前をはだけ、今度はシャツの上からまおの腹を撫でた。  まおが「はいはい」と思いながら何食わぬ顔で電車に揺られているとスススッと両手が上がっていき、予想と違う動きに微かに眉尻を下げる。 (あー…そっちか。そっちはまだあんまり開発されてないんだよなぁ…) ちょっと時間がかかるかもしれないと腕時計を見て、時間を確認する。悠長に見ていると腕はどんどん上がっていき、案の定まおの胸へと到達して無遠慮にそこを揉み始めた。 しかし、揉み始めてすぐに男の手が止まる。当たり前だ。 想定していた豊満な乳房の感覚ではないのだろう。 とは言え、男性にしては少しむちっとしたまおの胸の感触に満足したのか、再びぎゅっぎゅっと揉み始める。 しばらく単調な動きで揉まれ、まおはどうしようかと更に頭を悩ませた。 (まさか、これで終わり…?さすがにそこじゃあ一生感じないんだけど…) たとえ、まおが他人よりちょっと敏感に開発されていたとしても、女性の乳房に当たる部分はまだまだ未開だ。 先端部分を触ってくれ!とどっちが変態なのか分からなくなるような願いを一心に念じ続けていると、念が伝わったのかいきなり乳首をぎゅっと指で掴まれた。 「っィ、ーーっ」 ひくっと喉仏が動く。 しかし、快感からではない。 (いっ…痛っっ) またも無遠慮に、ぎゅー、ぎゅーと小さな尖りが引っ張られる。時折、引っ張られたまま乳首を捻られ、ワイシャツだけでなく眉間の皺も深くなる。 (こ、の…っ下手くそ!!そんな伸ばしたり、つねったりして気持ち良くなるわけないだろ…っ!作りもんの見すぎだ…っ!自分にもついてるんだから、試してから人にやれよ…っ)  感じないどころか痛みの方が上回り、頭の中で罵詈雑言を並べ立てる。しかし、少しでいいから快楽を拾わなくてはいけない身としては、怒りに支配されてる場合ではなかった。痛いなら尚更、さっさと終わらせたい。  苦行を耐えるかのような顔つきが窓に映り、周りにバレないように猫っ毛の前髪で顔を隠すように下を向く。その間も弄られ続け、生理的反応でぷっくりと乳輪ごと乳首が膨れてシャツを押し上げ始めたところで、不意に先端を指の腹がかすった。 「ぁ、っ」  甘い声音が喉から漏れて、慌てて口許を手で覆う。しかし、ちょうど電車が大きく揺れたところで、その声はかき消されていた。 ほっと息を吐くが、まおのその様子に気づいたのか、先程までひどく雑だった指先が尖りを執拗に撫で続ける。  撫でられる度にゾワッゾワッと背筋が震え、喉が鳴る。耳朶やうなじも赤くなってきた。 まおは「よかった」と思いながらもここからが一番苦しいとこでもあった。  周りにバレないように、でも、確実に快楽を捉えていかないといけない。  漏れそうになる声や派手に反応しそうになる体を必死に抑えながら、明らかに体調が悪そうに見えるまおの姿に周りが気づきそうになった瞬間、ーーーそれは起こった。  男の指が急に動きを止めたかと思うと、痙攣するかのように指が様々な動きをして黒い靄になると、まるで掃除機に吸い込まれるかのようにまおの下腹部に吸収されていった。 ズグンッと下腹部がひどく熱くなる。 ズボンで見えないが、そこでは五芒星が赤く光っているはずだった。その印を押さえるように手を当てる。 ズグンッズグンッと熱くて重い快感が、脈を打つのが分かる。 今日のはやけに活きがいいなと思いながら脊髄を通る甘い快楽に、自分も悠長にしていられないと次の停車駅で降りることにした。

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