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1-2 お仕事紹介します
プシューっと気が抜けるような間抜けな音を立てて電車の扉が開いた。後ろの人に押されながらまおも降りるが、快楽で足が覚束ずよろよろとした足取りになってしまい、何度も人にぶつかられる。忙しい人々は他人に無頓着なようだ。
軽く前屈みになりながらもどうにか駅ホームのベンチに座り、はぁと熱い息を溢した。
これであとは電話して迎えにきてもらえば大丈夫だと、鞄の中のスマホを取り出す。しかし、取り出したスマホ画面は真っ暗で、いつの間に電源が落ちたのかとまおは小さく首をかしげた。不思議に思いながら電源ボタンを長押しするが、反応がない。おかしいと思い、何度か同じことをするが、スマホはうんともすんとも反応しなかった。
(う、うそだろ…っっ!?)
赤かった顔が一瞬青くなる。
(あ!落としたから?落とした直後は大丈夫だったのに…っ)
スマホが壊れた理由が思いつき、がっくしと頭を垂らして、文字通り頭を抱えた。
これだと連絡がつかなくて戻ることができない。電車で戻るにも、今のまおの状態では、自分の方が痴漢、変態だと通報されかねない。
なんせ息は上がり、全身をほんのり赤くさせて汗ばみ、ジャケットで隠れているが乳首はシャツを押し上げるように勃起しているのだ。唯一救いなのは、貞操帯により股間の膨らみが分からないだけだ。
現金も持ち合わせていないから、駅から出てタクシーを使うことも難しい。詰んだなとまおは思った。
とは言え、ずっとベンチに座っていても現状は変わらず、むしろ腹の奥で暴れられる度に快楽が増して苦しくなる一方だ。
万が一、ワイセツ罪で捕まったらその時はどうにかしてもらおうと思い、腹を決めて立ち上がろうとしたところ、「あのー…」と恐る恐るといった感じで声をかけられた。
顔を上げると特徴的な帽子を被り、制服を着た駅員の男性であった。調子が悪そうに見えるまおを心配した客が、駅員に声をかけたようだ。ついさっきまで世の中は世知辛いと思っていたが、ここは優しい国だなぁと感動しつつ時にそういう親切によって困ることにもなるんだよなとまおは思った。
「お客さん、大丈夫ですか?駅の事務所で休まれますか?」
「あ…いえ、友人が迎えに来るので、ここで大丈夫です」
人当たりの良い笑みを向けながら断りの意思を告げる。とりあえず今はできるだけ放って欲しいし、離れて欲しかった。
だが、駅員はわざわざ腰を屈めて起き上がらせようとする。
大丈夫だと手で軽く押し退けようとした時、不意に駅員が耳元で囁いた。
「そんなに乳首おっ勃てたままじゃあ、辛いでしょう?」
その言葉を聞いた瞬間まおは目を丸くし、駅員の股間を確認すると案の定ズボンの前がパンパンに膨れていた。
(…当たっちゃったか)
やっぱりなと思い、さらにややこしいことになったとまおは顔をしかめる。
こうなった時のまおは、周りを興奮させる瘴気を放っているらしく、相性もあるが耐性のない人が近付くとこの駅員のように性的な本能に支配されてしまう。
どうしたものかと思いつつもこのままにしておけず、相手の瘴気をどうにかしてまおの体にいれる必要があった。ただ、その方法はまおには限られており、体液、つまり精液ごと吸うしかなかった。
するりと駅員の腿に手を置いて、今度はまおが小さな声で囁く。
「事務所じゃ人がいますよね?恥ずかしいから、トイレに行きませんか?」
「…っ」
まおの提案に駅員が息を飲むとニヤリと口許を歪め、二人一緒に立ち上がる。ホーム内のトイレへ行こうと歩みを進めるもまおは快楽で足の力が抜けてしまい、ぐらっとよろけてしまった。
そのままこけてしまいそうになり、目を瞑るも衝撃はいつまで経っても来ない。
「…、…?」
そろりと目を開けると、そこにはショートヘアーの美女が立っていた。
美女はしっかりとまおを支えるとぐいっと自らの方へ引き寄せて駅員から距離を取らせる。
「…友人が迷惑かけたみたいで。迎えに来たので、もう心配されなくて大丈夫ですよ」
切れ長の瞳を細め笑んではいるが、柔らかな声音の奥に冷たさが垣間みえる。
そして、ぶつぶつと小さな声でお経のような言葉を呟くとどこから出したのか小さな形代を一枚取り出し、駅員の肩に触れさせた。
その瞬間、駅員の体から黒い靄が抜けていき、形代の中に吸い込まれていく。瘴気が全て抜けると駅員は焦点が合わずに呆けている。美女は顔を近付けて、更に「サッキノコトハ、ゼンブワスレロ」とねっとりとした低い声音で囁いた。
すると一瞬、駅員の体がぐらりと揺れるものの次の瞬間にはまお達に視線もやらず、スタスタと駅のホームを歩いていってしまった。
相変わらず術の力がすごいなとまおが感心していると急に視界がぐるりと変わって、思わず支えになりそうなところを掴む。それは美女の肩だった。
美女の顔が近くでにっこりと笑い、「さ、帰ろうか?まお」と言い、通話口よりも柔らかく、どこか企みを孕んだ楽しそうな声をかけてきた。
「ちょっ、葛葉さん…っ、降ろして、ください…っ」
「体調悪いんだから無理しちゃダメだよ?」
『葛葉』と呼ばれた美女は成人男性のまおを軽々とお姫様抱っこしながら、それはそれは楽しそうに目を細める。
透き通った白い肌に卵のような輪郭、小顔でふさふさな睫毛、筋のとおった鼻、小さな鼻梁、薄いが荒れのない潤った唇と、一見美女に見えなくないが、彼はれっきとした男性だった。しかも、すらっとした華奢な体つきの割に筋肉がついており、自分よりも3㎝ほど高く177㎝もあるまおを難なく抱えることができた。
モデルのような美女、もしくは美青年が、一般男性をお姫様抱っこしている構図があまりにも衝撃的で、周りからの視線が2人に集まる。
まおは居たたまれなさに何度も降ろすように懇願するが、葛葉は一部の人間に対して悪戯好きになるため、改札を出て見知った車の前へ行くまでお姫様抱っこをされたままだった。
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