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1-3 お仕事紹介します

 駅から出て道路沿いに少し歩いたところで人気の少ない小路に入り、その道の横に黒のミニバンが駐車していた。ミニバンの前に一人の若者が立っていた。若者はオレンジ色のベリーショートヘアーを更にツーブロックに刈り上げ、両耳にシルバーのピアスを数個、だぼっとしたTシャツにスキニーのズボンを履き、かなり目付きが悪く電子タバコを吸っていて、一見して輩というような風貌だった。  しかし、若者はまおが葛葉に姫抱っこされている姿を見ても別段驚く様子もなく、2人を一瞥してから後部座席の扉を開いた。開かれた扉の前で、ようやくまおは葛葉の腕から降ろされる。しかし、息は上がりピクピクと小さく震えて足にうまく力が入らないため、葛葉の腕に手を置いた。それを見ていた若者はまおを見下すように「はっ」と鼻で笑い、「相変わらず無様だな、瑪且(まそ)」と吐き捨てた。まおこと一条瑪且は何も返さない。傷ついたわけではなく、それが日常で特に気になる言葉でもなかったからだ。葛葉も気にする様子なくのんびりとした口調で、「朱紀(すずみ)は、相変わらずまおのこと好きだよねぇ」と言いながら瑪且を後部座席に座らせる。 「はあ"ぁ!!?好きじゃねぇよ!」  朱紀と呼ばれた若者は電子タバコを胸ポケットに入れながらドスを利かせた声で否定する。しかし、葛葉は「うるさいよ」と軽くいなす程度でそのまま後部座席に乗り込んだ。  朱紀は顔を真っ赤にさせながら2人が乗り込んだ後部座席をバンッと勢い良く閉めて、左足を軽く引き摺りながら運転席へ乗り込んだ。  車の電源を入れるとナビに自宅住所を設定し、朱紀が運転をする。短気な彼だが、走り出しはとてもスムーズで運転はとても丁寧だった。それでも段差があるとガタッと車内が揺れる。その刺激でさえ、今の瑪且には辛く「ンゥッ」と甘い声が漏れる。その声が聞こえる度に朱紀の喉仏が上下し、イライラした面持ちでチッと舌打ちした。  その姿をバックミラー越しに葛葉は眺めながら口角を歪めると瑪且の頭を己の膝に導きながら伊達メガネを取り去り、ジャケットも脱がせてやってから膝枕をした。 「まお、大丈夫かい?今日は一段と苦しそうだね?」  瑪且の頭を撫で、熱い頬へ指を滑らせる。ゾクリと震えて、瑪且の肌は粟立った。 「ッンン、ぅ…はい、すごい…腹の中、暴れてて…たぶん、こいつ…生きてます」 「なるほど、それはしんどいね」  葛葉は納得したように頷きながら瑪且の下腹部へ視線をやった。 『生きてる』とは、『生き霊』のことを指しており、死霊より抵抗する力が強いのだ(ただし、怨霊は除く)。瑪且の印紋の中で本体に戻ろうと暴れており、五芒星が灼けるように熱い。 「なら、部屋に着いたらすぐ取りだそう。まお、今日はどんなことをされたんだい?」 「…、…胸を…弄られました…」 「胸?胸って?」  葛葉の指先が首筋を通って鎖骨を辿り、胸板を掴んだ。 「ッ!」  瑪且の喉が鳴る。ワイシャツの下でははっきりと主張する2つの突起があり、察しの良い葛葉が分からないはずはない。 「まお?」  優しい声音で、葛葉だけが呼ぶ名前で呼ばれる。 「…っ、…ち、くびを…弄られました…」 「弄られたって?どんな風に?」 「ンぁッッ」  きゅっと優しく、右の乳首が摘ままれる。その瞬間、ビクンッと体が跳ねて甲高い声を上げてしまった。  すると、車体が不意にぐらっと大きく横に逸れて、すぐに元に戻った。 「う、う、うるせぇ!!この発情ネコがっっ!!」  真っ赤な顔をした朱紀が運転しながら怒鳴る。 「君の方がよっぽどうるさいよ。それに危ないじゃないか。まおが怪我したらどうするんだ?安全運転もできないようなら、今度から乙人(おつと)に戻ってもらうよ?」 「くっ…」  冷静な声音でぴしゃりと葛葉が答える。ぐぬぬっと唸るも朱紀はそれ以上なにも言えなくなった。主人に諌められたら、さすがに反論できない。  とは言え、瑪且から見たら葛葉は全く本気で諌めたわけではなく、単に朱紀をからかっているだけだった。朱紀は瑪且より、たしか3才くらい年上だったが、このように感情が豊かでからかいがいがあり、葛葉の格好の餌食だった。  既に瑪且達のところへ来て半年は経つのだから、この環境にそろそろ慣れればいいのにと瑪且は思いつつ己も羞恥心はなかなか消えないため、お互い様かとも思う。  せめて運転中は声を漏らさないようにと口許を手で塞ぐも摘ままれた乳首をコリコリと潰され、「あっ…あっあ…っ」と漏れてしまう。  そして、朱紀の反応に満足したのか、再び葛葉が「で?どんな風に弄られたの?」と聞いてきた。  体のどの部位で感じて、印紋に封じ込めたのかが重要なだけで、どんな弄られ方をしたかは特に言わなくてもよかった。しかし、葛葉はいつも事細かに説明するよう瑪且に命令する。瑪且にとっても葛葉は主人で、絶対的な存在だ。たとえ、己の羞恥心を煽って楽しむだけの行為でも逆らうことはできなかった。 「ぁ、んんっっ…乳首が腫れる、まで…引っ張られて、ンゥッ…ん、その後…先っぽを…あ、ぁ…っ…指で擦られ、まし…た、ッッッ!!」 「腫れるまで?それで感じた?僕のまおはいつの間にそんなドMになったんだ?」 「い、いえ…っっ、引っ張られた、のは…痛かっただけ、で…ンンンッッ」  妖艶な笑みを浮かべたまま葛葉は瑪且が言ったままに乳首を引っ張ってみたり、先を指の腹や爪で擽ったりする。その度に瑪且の体は跳ねて、ぶわっと毛穴が開く。   「そうだよね?まおはまだ乳首は開発しきれてなかったもんね?」  そうなのだ。尻で達することはできても、乳首でイクことはまだできない。  それは今回の仕事にあたって、ある意味一番の問題点だった。    瑪且の反応を愛おしそうに眺める葛葉に視線をやると、「どうしたの?」と優しく頭を撫でられる。心地よさよりも今はそれすらも快楽でぶるりと震えながら瑪且は掠れる声で懇願した。 「調教部屋に…行かせてください…っ」

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