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1-4 お仕事紹介します
ブッと朱紀が吹き出す。当たり前だ。調教部屋に行かせてくれなんて言葉、普通は聞かない。つまり、それだけ瑪且は切羽詰まっていた。
そして、普段だったらすかさず「汚いなぁ」とか「うるさいよ」と葛葉がからかう言葉が聞こえるはずだが、今はない。
(あ…ヤバイかも…)
瑪且が葛葉の顔を見ると漆黒の瞳と目があうが、笑みはなく真顔だ。普段微笑んでいる美人の真顔ほど、怖いものはない。快楽ではなく悪寒でぶるりと震える。しかし、瑪且にも瑪且の事情があって、怯えながらも訴えるしかない。
なんせ、今、胎の奥で暴れている生き霊を取り出すには、取り入れた時に感じた部位で絶頂しなければいけないのだ。つまり、開発されきっていない胸の先端のみで、絶頂する必要があった。
葛葉が言った通り、さすがの瑪且もそこはまだ開発しきられておらず、おそらく時間がかかる。生き霊でなければ少し時間をかけても良かったかもしれない。しかし、まるで媚薬を飲んだような強制的に快楽を引き出されながらも絶頂まではいかない感覚が波打つ今の状態では、そんなに時間をかけられたら狂ってしまう。
ぎゅっと葛葉の服の袖をすがるように握る。
「お願い、します…っ…さすがに、きつい…です…」
「まおは僕以外に開発される方がいいのかい?」
「ちが、いますっ」
そんなことはないと頭を左右に振る。機嫌取りではなく本音だ。
そもそも瑪且はマゾでもビッチでもなく、性癖は基本的にノーマルだ。自分の役割を理解しているだけで、別に調教や開発されることを望んでいるわけではない。
調教部屋なんて言葉を口にして、あまつさえそこに行くことを懇願する言葉なんて、正直すごく恥ずかしいのだ。そして、喘いで乱れるような恥ずかしい姿を見られるのなら人数は少ない方がいい。
葛葉には絶対に見せなくてはならないので、それなら葛葉一人に開発される方が本当はよかった。
だが、今の状態ではそれをするのにリスクの方が大きい。
「…」
「もち、ろん…っ、葛葉さんが良いです…けど、時間がかかって…っ、おかしく…なりそうで…っ」
無言で見つめてくる葛葉の腹に、本能的にすり寄る。その姿を見ながら葛葉の指が再び服の上から乳首を擦った。ぞくぞくと甘い快楽に体が跳ねる。
「んぁっっ」
「…まお、気持ちいいかい?」
「っう、ぁ…きも、ちい…です…ン」
「うーん…僕でも開発できそうだよ?ここ」
きゅっと摘ままれる。
「ひっ…ッッ」
「まおは誰のものなの?」
「く、ずは…ぁ、さん…っのもの、です」
「そうだよね、まおは僕のものだよね」
「ぁ、あ…あ…っ」
カリカリと先端を優しく爪で引っ掛かれて、腰が自然と動いてしまう。
「まおは僕のものなのに、また僕が開発できないのはイヤだなぁ…」
のんびりとした口調と共に強く先端を押し潰されて、びくんっと体が硬直した。上がりそうになる声をどうにか飲み込む。
まだ瑪且が仕事を始める前、つまり瑪且の体もまっさらな頃、葛葉が開発をしようとしてうまくいかなかったことがあった。その時も調教部屋を使って瑪且の体を開発しており、そのことを葛葉は今でも不満に思っているのだ。
傍若無人な主人らしく、自分のものは自分の手中に収めておきたいらしい。特に瑪且に関しては顕著で、明らかに他を逸して執着をしていた。
「…まーお、それでも調教部屋行きたいかい?」
「ぅあッッ、ぁ、んくっ」
乳首を押し潰されたままカリカリと引っ掛かれて、眉間に皺が寄る。眉尻を下げて下唇を突きだし、甘えたような声で葛葉が問いかける。10歳も年上だが、年齢不詳な美貌と相まって可愛く思えてしまい、瑪且は息を飲んだ。
(く…っ、可愛い…っっこれだから美人はずるいよな…っ)
しかし、瑪且も頑固さでは負けていなかった。
「行きたい、です…っ」
ふぅっと葛葉がため息を吐く。
「全く…まおは頑固だなぁ」
まるで仕置きのように乳輪ごと乳首を強く引っ張られる。
「ひ、ぃッ」
悲鳴じみた声が喉から溢れる。しかし、すぐにその指が離されると優しく頭を撫でられた。
葛葉の顔を見ると、いつもの微笑みを浮かべている。どうやら葛葉の方が折れたらしい。瑪且がほっと息を吐くが、次の言葉に瑪且は泣きたくなった。
「じゃあ、半日。半日僕がして、それでダメだったら調教部屋に行こう」
(うわ…変な折衷案を出してきた…)
しかし、これ以上粘ったら折角の折衷案までなくなってしまうかもしれない。
結局、瑪且が折れる形でこくりと頷いた。葛葉が満足そうに笑って、「半日でイケるようにしようね」と無茶なことを言いながら瑪且の額にキスをした。
とりあえずさっさと家に着いて欲しいと思って車窓から外を見ると、先程まで都心部の風景だったのが大きな家が建ち並ぶ街並みに変わり、あまつさえ生い茂った木々が見えてきた。
見慣れた風景に、そろそろ到着するのだと少しばかり安心する。
「朱紀、そういうことだから調教部屋は後で準備しとくんだよ」
「…っ、…っ」
朱紀はなにも言わない。快楽の熱で潤む瞳でバックミラー越しに朱紀を見ると、耳朶まで真っ赤にして鬼の形相になっている。あまりの濃厚なやり取りに困惑をしているらしい。
バチッと朱紀と瑪且の視線が交わる。
「て、て…っっ、てめぇら!!そういうことは俺のいないとこでやりやがれっっっ!!」
「うるさいよ、朱紀。そろそろ慣れなさい」
朱紀が大音量で怒鳴ったのと同じタイミングで、目の前に瓦屋根の大きな数寄屋門が現れた。
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