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1-6 お仕事紹介します
あれからどのくらい時間が経ったのか、瑪且には分からなかった。部屋には時間が分かるものは置いていないし、外の気配を探るほど、今の瑪且には冷静さがなかった。
「まお、どう?イけそうかい?ん…」
「あ、ぁっ、あッッ…く、ぅッッ」
葛葉の形の良い口が限界まで硬くなった乳首に吸い付き、脊髄を甘い刺激が走り抜ける。はだけたシャツから胸を突き出して後頭部をシーツに押し付け、瑪且は悶えた。そのまま硬い白い歯で乳首の根本を軽く噛まれる。
普段なら痛い刺激も色情霊が入っている今の体にはひどく蠱惑的な刺激だった。ビクンッと大きく跳ねると、既に貞操帯を取った瑪且の雄が腹の上でぶるっと震えて先端からトプッと涙を溢す。
「あぅッッあ、ぁ…ッッ」
一瞬達することができたかと思ったが、下腹部の五芒星はなんの反応もしない。
(だから、言ったのにっっ!!乳首なんかでイけるわけない…っっ)
絶頂の一歩手前、達しそうな快楽が波のように寄せては引いていく、ずっとお預けを食らっているようなこの状態が一番苦しい。普段は従順な瑪且もさすがに感情を露にして、涙で潤んだ瞳でキッと葛葉を睨む。しかし、葛葉は一瞬きょとんと目を丸くして瑪且を見つめてから何故かとても嬉しそうに口角を引き上げ、愛おしそうに瑪且の目元へ唇を落とした。
それもそのはずで、恨み辛みを含んだ眼光を飛ばしたと瑪且は思っていたが、快楽に耐え続けた目元は力がなく、眉尻も下がって、今にも泣き出しそうに見え、まさに次の快感をねだるようなものだった。
「まお。ほら、もっと乳首に集中して?」
葛葉の綺麗な指先が瑪且の目元を多い隠し、視界を遮った。目の前が真っ暗になり、視覚を奪われる。そして、葛葉の息が耳元にかかったかと思うと、まるで今朝の駅員に呪文を言う時のような有無を言わせないねっとりした声音が、瑪且の神経を犯した。
「まおの乳首は今、お腹の膨らみみたいにとっても気持ちいい性器になってるんだよ?いつもボクが指で擦ったり、潰したりしてるだろう?よく思い出して…?」
「っ、っっぁ…」
ごくりと瑪且の喉が鳴る。触れられてもいない瑪且の開発済みの後孔がひくつき、肉襞が勝手に蠢いて前立腺付近が熱くなる感覚に陥る。
膨れ上がった乳首の敏感な皮膚を、いつも葛葉が前立腺を擦るように2本の指で擦られ、ここが前立腺なんだと錯覚させられる。
「ほら…いつものように…、潰してあげる…」
空いている指先が瑪且の膨らみをゆっくりと押し潰した。
「~~~ッッ、ああぁッッあ、あっっ!!!」
まるで前立腺を潰されている感覚に陥った瑪且は声を荒げて腰を宙に浮かせた。瑪且もイケると思ったが、なぜか快感の波が引いていくのを感じ、絶頂には至らなかった。
(な、んで…っ)
バタンっと浮いた腰が布団に落ちる。まるで全力疾走をしたかのように呼吸が乱れ、瑪且はぐったりと横たわった。
「はぁっはぁ、はぁ…っ」
「うーん…ダメか」
葛葉がいつもののんびりとした口調で言っているのが聞こえた。とは言え、さすがに瑪且の疲労した様子を見て困ったように片眉を下げているのだが、今の瑪且には分からず、達することができない辛さや怒りが込み上げてきてボロッと大粒の涙と嗚咽を溢し始めた。
「うっうぅ…、う…っっ」
「ま、まお?」
怠い両腕で顔を隠しながら泣いているとさすがの葛葉も慌てたような声で名前を呼び、顔を覗き込もうと掴んでくるが、それをばしっと叩き落とした。
普段なら絶対にしない無体だが、今の瑪且は全く冷静じゃなかった。
「もぉ…っ、やだ…」
「ま…」
「く、ぅはさ…んなんて、ひっ、きらいです…っっ」
まるで小さな子どもがする幼稚な怒り方だ。しかし、まかりなりにも安倍野家当主に「きらい」なんてワードを使おうとする肝の据わった人間は周りにおらず、葛葉はその言葉に慣れていない。しかも、幼い頃から瑪且が本気で怒った時しか使わないことも葛葉は分かっており、さすがに葛葉が真顔で固まった。
「もっ、あっち、ひっく…っ、行って…ください…っっ」
「まお…ごめんね?まお?」
「きらいですっっ、いやだっっ」
「…まお」
困惑した声で頭を撫でられるが、それすらも怒りに変わり、払い除けようとする。ふと「はぁ」と溜め息が聞こえて、ようやく自分が主に対してなんて扱いをしたのかと気付いて涙が止まった瞬間、ふわりと紋付羽織が体にかけられた。
そのまま膝裏と頭の裏に手を差し込まれ、勢いよくお姫様抱っこをされる。朝と同じ様に慌てて葛葉の服を掴んだ。
「まお、ごめん。ボクが悪かったよ」
「葛葉さん…」
「僕の我が儘に付き合ってくれて、ありがとう、まお。…ん、よく頑張ったね」
ちゅっと泣き腫らした目元にキスが送られ、そのままこつんと額と額がくっつく。昔から葛葉が瑪且を慰める時にやる行為だった。
自然と体から力が抜ける。
「っ…すみませ、…」
「まおは何も悪くないよ。僕が悪かった。さ、調教部屋に行こう?すぐに苦しいのが終わるよ」
普段の人好きのする笑みではなく、瑪且だけに向けられる真摯な、そして慈愛に満ちた瞳がそこにはあった。
それもまた、『瑪且』を使役する当主の役目なんだろうと思いつつ瑪且は静かに葛葉の体に身を預けた。
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