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煌めくルビーに魅せられて

 椅子の上に突っ伏している、苦しそうな桜小路さんの体を強引に起こし、自分を見るように頬に手を添えた。 「おいしくない俺の血だけど、それで桜小路さんのつらいのがなくなるのなら、どうぞ吸ってください!」 「ううっ……積極的に提供してくれるのはありがたいのだが、君の血は本当にマズいからね」 「良薬口に苦しですよ、さあどうぞ!」 「プッ、ふははっ」  俺としては真面目に言ったつもりなのに、桜小路さんは思いっきりイケメンを崩して笑いだした。 「なんで笑うんですか」 「だって、おもしろいことを言うものだから。君の血は薬ね、なるほど。だったら遠慮なく、いただくとしよう」  頬に触れている俺の手をとり、やるせなさそうな面持ちで甲に唇を押しつける。 「すぐに終わる、体を楽にして」  桜小路さんは、椅子の前に膝立ちしている俺の体をキツく抱きしめ、首筋をペロリと舐めてから、鋭い犬歯を突き刺した。 「くっ……」  全然痛くないものの、皮膚を傷つけられている感触があるため、見事に脳がバグる。それと耳に聞こえる血を吸う音が、妙に艶かしい。 「ンンっ」  マズさを堪能するように血を吸われていると、なんだか体の奥が熱くなってきた。 (――というか股間がどんどん大きくなってるのは、どうしてなんだ?)  それを知られないようにすべく腰を引いたら、体を抱きしめる桜小路さんの両腕に力が入り、俺の動きを阻止した。 「桜小路さ、もぅやめっ。変な気分になってきた」 「変な気分?」  首筋から顔をあげた桜小路さんの唇に、薄ら血がついていて、それが口紅に見えてしまい、その色っぽさに胸がドキッとする。 「やっあの、あまり血を吸われると、貧血みたいにクラクラするというか、えっと」  ほかにも、有り得そうな理由をつけて言い淀んでいると、桜小路さんは無言で俺の下半身に触れた。 「ヒッ!」 「つらそうだな。抜いてやろうか?」 「けけけけっ結構です、触らないでくださいっ」  慌てて下半身に触れている手を外し、前かがみになる。 「瑞稀がこうなったのは、きっと俺のせいだ。吸血鬼の唾液の成分に、体が卑猥になる作用があるのかもしれない」 「卑猥って、そんな成分が含まれているなんて」 「俺も知らなかった。いつも相手に催眠をかけて、無反応な人間の血を吸っていたからね」  桜小路さんは気難しそうな表情で俺に顔を寄せ、いきなりキスをした。唇だけじゃなく、長い牙も唇に触れているせいで、怖くて逃げることができない。 (――俺のファーストキスが、同性に奪われてしまった!)  やがて唇の隙間に舌を差し込まれ、じゅくじゅくと音をたてて舌を出し挿れされた。 「んっ、あぁっ…んあっ」  なにもしていないのに、痛いくらいに股間が張り詰めていく。きっと桜小路さんの唾液の影響だろう。 (触るなと言ったからって、こんなこと――) 「やらっ、も、やめて。んんッ」 「やめてと言ってるのに、微妙に腰が動いてる。イキたいんだろう?」  俺が逃げられないように両手で頭を掴み、濃厚なディープキスを続けられる。 「ぁあっ、やっ」 「ほかに感じてるところは……」  いつも間にかTシャツの裾から桜小路さんの手が侵入し、胸の頂を優しく摘む。 「エッチな体だね。ここも硬くなってる」 「違ぅ…そんなと、こ感じなぃ」 「だったら俺がここを舐めたらどうなるか、実験してみようか」  耳元で囁かれた艶っぽい言葉に、なぜだか腰がぎゅんとなる。気合いを入れてなかったら、間違いなくイってしまうと思われ――。 「ダメ、そんなことし、ちゃ、きっと変になる」 「瑞稀、今の君、すごくかわいい。どんどん悪いコトをしたくなる」 「なにを言って」 「荒い呼吸を繰り返しながら俺に寄りかかり、淫らな体で誘ってること、わかっていないだろう?」 「だってこれは桜小路さんのせい、なのに」 「モノほしげに潤んだ瞳で俺を見つめるだけで、もっと手を出したくなる。かわいい君を、どんどん喘がせたい」  そう言い切った桜小路さんのルビー色の瞳が、煌めきを放った。俺を欲する彼の気持ちが嫌でも伝わってきて、拒否することはおろか、もっと。 「吸血鬼のアナタにそんなふうに言われたら、簡単に流されちゃいますよ」 「ふふっ、童貞の君には刺激が強いかもしれないが、場所はこんなところだし、ほどほどにできるように善処してあげよう」  なんで童貞なのを知っているのか――俺の血を吸って吸血衝動がおさまったのかなど、聞きたいことが山ほどあったのに、ふたたび唇を塞がれたことで、すべて無になってしまったのだった。

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