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煌めくルビーに魅せられて3

 桜小路さんの胸元から恐るおそる顔をあげて、頭上にある整った彼の顔を眺める。  間接照明の淡い光が彼の顔に陰影を与えるおかげで、同じ日本人とは思えない彫りの深さを感じた。その下にあるルビー色の瞳が綺麗に揺らめき、さらに格好よく俺の目に映る。 「桜小路さんがこうして傍にいるだけで、ドキドキしています。もしかしたら、好きになっているのかもしれませんっ」  思いきって告白した俺を、桜小路さんは意味ありげに双眼を細めて見下ろす。 『吸血鬼の俺と普段の俺、瑞稀はどっちが好みだろうか?』 「そんな難しいことを聞かれても、なんと答えていいのか困ってしまいます」 (比べられないくらいに、両方とも格好よくて好みですなんて、絶対に恥ずかしくて言えない!)  両手で頬を押えて赤みを隠そうとしたら、両手首を引っ張られ、勢いよくベッドの上に放り投げられた。 「うわっ!」 『俺の質問に答えないイジワルな君には、お仕置が決定だな。まずは血を吸って、味を確かめてから――』 「ダメです! 美味しくない血を吸われたら、俺のがまた大きくなっちゃうじゃないですか」  切実な問題だから必死に訴えたというのに、桜小路さんはそんなの関係ないと言いたげに、弾んだ声で返事をする。 『ふふっ、実は味が変化してるんだよ』 「へっ変化?」 『ゴンドラで瑞稀の血を吸ったときに、気づいたんだ。甘みが増して、美味しくなってる』  目の前で舌舐めずりしたあとに顔を寄せて、俺の唇を下から上へと大きく舐めた。ただそれだけなのに、ゾクッと感じてしまい、変な声が出そうになる。 『瑞稀に俺の愛情をたくさん注いだら、美味しくなるのか。はたまた君が俺をもっともっと好きになったら、美味しくなるのか。いろいろ考えるだけでも、夢が広がって楽しいよ。どれだけ君の血が甘露になるのかと』  桜小路さんは俺に股がって体を動けなくしてから、首筋を丁寧に舐めて、ガブッと噛みつく。 「くぅっ!」  やっぱりというか血を吸われるたびに、俺の下半身がどんどん大きくなった。 「やっ、もぉダメ~……イっちゃう」 『では瑞稀の大きくなったブツを、直接吸ってイカせてあげ――』 「もっとダメです! ひとりでイキたくない」  急いで大事な部分を両手で隠して、ここぞとばかりに声高く叫ぶ。 「だって俺ばかりイって、桜小路さんはずっと我慢してるじゃないか!」 『そこは雅光と一緒にイキたいと、うまく強請ってほしいな』  突然告げられた桜小路さんのワガママに、目を白黒させるしかない。 『瑞稀言ってごらん。君が言えば願いが簡単に叶うよ』 「年上の桜小路さんの名前を言うのは、俺にはハードルが高すぎます」  体を縮こませて、ごにょごにょ返事をしたら。 『だったら君が呼びやすい、あだ名をつけてくれ。エロ光や吸血太郎とかでもいいよ』  桜小路さんがえらく真面目な表情で言い放ったせいで、突っ込むタイミングを見事に失った。茫然自失しながら、重たい口を開く。 「最初に偽名を使ったときといい今といい、ネーミングセンスがなさすぎです」 『これでも真剣に考えたのに……』  しょんぼりする吸血鬼の姿は、ここぞとばかりに笑いを誘うものだった。迷うことなく、声をたてて笑いまくる。 『瑞稀、ちょっと笑いすぎだろ』 「だって、本当におもしろいんですって。真剣に考えたものとは、到底思えない」 『なるほど。君がそんなに笑うのなら、もっといいあだ名を考えてみようか』 「俺が考えますので、桜小路さんは黙ってください」  なんとか笑いを堪えつつ、呼びやすそうなあだ名を考えた。目の前で今か今かと、期待を込めた眼差しを注ぐプレッシャーを無視して、覚悟を決めたというふうにハッキリ言う。 「これから桜小路さんのことを、マサさんって呼ぶことにします」 『マサさん……なんだか新鮮な響きだな』  ルビー色の瞳を、何度も瞬かせたマサさん。もしかして吸血鬼なのを隠すために、こんなふうに呼び合う仲のいい友人がいなかった可能性があるなと思った。  だからこそ、心を込めて告げてあげる。 「マサさん、ふつつかな俺ですが、これからよろしくお願いします!」 『ナニをよろしくしたらいいのだろうか?』 (わかってるクセに、イジワルなことをワザと言う、そんなマサさんが好き――) 「マサさんと一緒に、気持ちいいコトがしたいです」  言いながら、マサさんの下半身に自分の下半身を押しつけて、擦りつけるように上下させた。するとマサさんの額を俺の額に押し当てて、低い声で告げる。 『わかった。いいあだ名をつけてくれた、君の願いを叶えてあげよう』  こうして俺のお願いをきいてくれたマサさんと仲良く絶頂して、一緒に就寝したのだった。

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