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煌めくルビーに魅せられて番外編 吸血鬼の執愛8
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ダブルベッドの上、俺の隣で横になっている瑞稀は、肩まで布団をきちんと被り、神妙な表情で話に耳を傾ける。
「俺たち桜小路家の血を引く者は、皆平等に吸血鬼になる資質を持ち合わせているんだ。しかもなにがキッカケで吸血鬼になるのか、未だに不明だったりする」
寝室に設置している間接照明のほのかな明かりが、不思議そうな面持ちをしている瑞稀を照らした。
「それって、アレルギーみたいな感じでしょうか。花粉症や食物アレルギーみたいな」
おもしろい瑞稀のたとえ話に、小さく笑ってしまった。
「確かに似ている。そんな感じだ」
「それじゃあいつ吸血鬼になるのか、予測ができませんね」
「そういうこと。俺が一族で吸血鬼をはじめて見たのは、5歳くらいのときだったか。泊まりに行った、祖父の家だった」
そのときのことを思い出してしんみりしたら、瑞稀は俺に寄り添うように体をくっつけてくれた。
「祖父に遊んでもらおうと、夕食後に書斎の扉をノックして中に入ったら、なぜか電気がついてなくてね、真っ暗だった。カーテンが閉められていない窓からの月明かりが、吸血鬼になった祖父を煌々と照らしていた」
「それってホラー映画で、ありえそうなシーンですね」
「ああ。見慣れない祖父の姿に、俺はハッキリと恐怖した。自分が襲われると思って、大声をあげたんだ。『こっちに来ないで化け物!』って」
ちなみに祖父が吸血鬼になったのは50代だと、あとから父に教えてもらった。
同じ血が自分にも流れていると自覚できる年齢になったとき、なんとも言えないおぞましさを感じた。化け物と叫んだ幼い俺が、吸血鬼になった俺に指をさすところまで想像した。
「マサさん、俺ね――」
考えに耽って口を噤んだ俺に、瑞稀が静かに話しかけた。
「はじめてマサさんを見たとき、化け物という認識がなかったんだよ」
「……ほ、本当に?」
平静を装えない、震える声で返事をした。
(彷徨っていた街中で、瑞稀に狙いをつけて彼の腕を掴み、ビルの隙間に引きずり込んだあのときの彼は、確かに恐怖という感情を示していなかったっけ)
食い入るように俺の顔を見つめて、瞳を揺らしていたのを覚えてる。
「本当だよ。俺を見つめるルビーのように綺麗なその目に、思わず見惚れちゃったんだ」
「瑞稀……」
俺に寄り添う細い体に、ぎゅっと縋りついた。何度目だろうか、瑞稀が告げるセリフで、痛いくらいに胸が絞めつけられたのは――。
「吸血鬼の俺を怖がらずに、受け止めてくれてありがとう」
「マサさんが吸血鬼じゃなかったら、俺たちは巡り合うことはなかったですよね」
俺を宥めるように、背中を優しく撫で擦ってくれる瑞稀のてのひらのあたたかみを、布地越しに感じた。
「ああ。結果的に俺は、吸血鬼になって良かったってことになるね」
「おいしくない俺の血を吸ってくれて、ありがとうございました!」
「ふふっ、本当にそれ。催眠にかからないのも、どうしてだろうね?」
「それなんですけど、吸血鬼のときのマサさんの目を見ながら、お願い事を聞いたときは、頭の中がほわほわするんですよ」
「ほわほわ?」
聞き慣れない言葉の意味がわかりかねて聞き返すと、俺の胸の中から顔をあげた瑞稀が、かわいい笑顔を見せながら口を開く。
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