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 数分後、ディーナがオムライスとケチャップのボトルを持ってきた。メフィストの前に雑っぽく置いた。 「はい、オムライス。なんか書いて欲しいもんあんの?」 「書いて欲しいもの? 特にないけど。何でもいいぞ」  ディーナはため息をついて、ケチャップのボトルを持つと、オムライスの上に文字を書いた。 「はい。さっさと食べて、さっさと帰れよ」  ディーナは文字を書き終わると、他の客のところへ行った。メフィストは書かれた文字を見て、苦笑いした。 「平仮名で雑魚はないでしょ。まっ、ハートマーク書いてるとこ、あいつらしいというか……」  メフィストはオムライスを一口食べた。今まで食べてきたオムライスの中で一番美味しく、驚いた。あっという間に平らげると、再びディーナを呼んだ。 「何? 指名制じゃないんだけど!」 「金はこれで足りるか?」 「全然足りる。はい、二度と来ないでくださぁい」 「次はストラスと来るからな。ほんじゃ」 「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!」  ディーナは顔を真っ赤にしていた。ディーナが昔からストラスに憧れていたのを知っていたので、メフィストは少しからかってやった。  メフィストは次に古書店へ寄り、店主に珍しい書物がないかを尋ね、ストラスの土産でその書物を購入した。 「飯も食ったし、ストラスの土産も買ったし、何すっかなぁ?」  メフィストがブラブラと歩いていると、突然後ろから誰かがぶつかってきた。メフィストが振り返ると、小さい子供だった。 「だ、大丈夫かい? って、おっとっと……」  メフィストが羽織っていたマントが子供の下敷きになっており、メフィストはバランスを崩し、噴水に勢いよく落ち、飛沫をあげた。 「だ、大丈夫ですか!」 「うわぁ、派手に入っちまった」  メフィストは髪をかき上げ、噴水から出た。子供はチラシと書物を両手に抱え、メフィストの元へ駆け寄ってきた。 「ほ、本当に申し訳ありません! 僕の不注意でご迷惑をおかけしました!」  メフィストは子供に大丈夫と言ったが、目の前で土下座された。メフィストは子供に触れようとしたら、子供は体を震わせ、涙目になっていた。 「いいよ。そんな怖がらないで。取って食ったりしないから。……あっ、ストラスの土産どこだ? 噴水の中か?」  メフィストが噴水の中を覗こうとしたら、子供が服を引っ張ってきた。 「あの、本なら大丈夫です。これですよね?」 「あぁ、それそれ。それが無事ならいいや。坊主、今度は気を付けなよ。じゃあな」 「お、お待ち下さい! お、お詫びを! そのままだと風邪を引かれてしまいます!」  メフィストはこのまま帰るつもりだったが、子供に服を引っ張られた。周りもなんの騒ぎかと見てきており、なんだか面倒事になりそうだ。メフィストはため息をつき、子供の前にしゃがんで、頭を撫でた。 「じゃ、服を乾かせる場所に案内してもらおうかな」 「はい! ご案内いたします」  メフィストは全身ずぶ濡れのまま、子供の後をついていった。

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