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 メフィストは市場の通りを外れ、入り組んだ薄暗い路地へと子供とともに入った。子供はメフィストがちゃんと後ろにいるかをチラチラと見た。そして、二人は路地の突き当たりにやってきた。 「すみません。遠くて……。でも、もう着きますから」 「もう着くって? ここ行き止まりだぜ?」  子供が壁に触れると、壁はすっと消え、行き止まりだった先に砂利道が現れた。 「こちらです」 「あ、あぁ……。隠し通路か」  メフィストは子供の後を追った。メフィストが入ると、壁は元通りになった。そして、振り返ると、今までの町並みとは違い、提灯がぶら下がり、裕福そうな者たちが遊び相手を店先で選んでいた。ストラスの古い書物で見たことがある。ここが遊郭ということが。 「なんだ、ここは? さっきと全然景色が違う」  メフィストは立ち止まり、初めて見る光景に目移りした。子供がメフィストの腕を引っ張り、そんな光景をゆっくり見させてくれず、とある屋敷へ入った。 入り口には年配の女性が座っており、全身ずぶ濡れのメフィストを見て、酷く驚いていた。子供が女性に事情を話すと、女性は子供に目くじらを立てて、怒鳴りつけていた。 「あんた、チラシもろくに配れない癖に、外客をずぶ濡れにさせて! 本当に使えない子だね!」 「も、申し訳ございません……」  女性はずっと怒鳴りっぱなしで、子供は半べそをかいていた。メフィストはいたたまれない気持ちになり、やんわり二人の話に割って入った。 「あ、あの……。着替えとかありますか? あと、疲れたんで、少し休憩したいです」 「ゴホンッ。お見苦しいところを見せてしまって、ごめんなさいね。ほら、苺! あんたが連れてきたんだから、きちんとおもてなししなさい! ――あぁ、ごめんなさいね。今回はお代は要らないわ」 「いえ、本当に休憩したいと思ってたんで、金は払います」  メフィストは金袋から金貨を適当に掴み、女性に手渡した。女性は金貨を数えると、メフィストの顔を見て、オロオロし始めた。 「あ、あの、こんなにも……」 「いいよ。休憩代がいくらか分からないし」 「あ、ありがとうございます。……苺! お客様に最高のおもてなしをしな! 分かったかい!」 「はい、……頑張ります。どうぞ、こちらです」  メフィストは廊下が水浸しになるか心配だったが、女性から問題ないと言われ、軽く頭を下げると、苺と呼ばれていた子供についていった。  敷地は広く、先程の母屋からいくつか廊下が伸び、小さな離れがいくつかあった。苺に案内され、メフィストは一つの離れに入った。苺はメフィストを露天風呂に案内し、タオルと浴衣を準備した。 「へぇ、風呂が外にあんだ。珍しいな」 「新しいお召し物をご用意いたしましたので、ごゆっくりお寛ぎください」 「ちょっと待った。苺ちゃんも一緒に入ろうぜ」  苺が立ち去ろうとした瞬間、メフィストは苺の腕を取り、ニコリと笑った。苺が戸惑っている間に、メフィストは服をすべて脱ぎ、全裸になった。苺はメフィストの裸を見て、顔を真っ赤にし、俯いた。 「あ、あの……。その……」 「俺、分かっちゃったんだよねぇ」 「へぇ?」 「ここって……そういう場所なんでしょ?」  苺は言葉を詰まらせ、目を泳がせながら、首を縦に小さくコクリとさせた。

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