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「お前は見た目も中身も俺より良いんだからさ、遊び相手の一人や二人作っちまえばいいのに。なんで捕虜にした聖女を好きになるかな……」
「遊び相手なんぞ必要無い。あと、好きな聖女を捕らえただけだ」
「うわぁ、それは初耳。俺でもちょっと引くな。どんだけ奥手なんだよ。それでよく四天王って言えるな。皆、腰抜かすぞ」
メフィストはストラスを憐れむような目で見つめた。ストラスは恥ずかしそうに頬を赤くし、そっぽを向き、ワインを一口飲んだ。
「俺らは魔界では完全に蚊帳の外だけど、いつ刺されるか分かんねぇし、どうせ俺らは地獄すら行けないかもしれないのに。男遊び位じゃ誰も怒らねぇって」
「メフィスト。一応言っておくが、俺は男には全く興味ないぞ」
「いやいや、苺ちゃんに会ったら、絶対に好きになるから」
「仮にそうだとしてもだな……。私は……その、なんと言うか……」
ストラスは急に黙り込み、目を泳がせた。メフィストは察したのか、顎を擦りながら、見透かしたような目でストラスを見た。
「分かった。……そういう事か」
「な、何がだ?」
「ストラス……。お前、あまりのショックで勃たなくなったんだろ?」
メフィストに図星を指されたストラスは、顔を真っ赤にし、気まずくなって顔をそらした。メフィストはストラスの肩を叩き、同情する素振りを見せた。ストラスは苛立ち、メフィストの手を払い除けた。
「お前はつくづく他人の不幸が好きだな」
「そんな事ないぜ。だって、俺らは互いに信頼し合う仲じゃないか」
「そうやって都合の良い事を……。こんな屈辱は久方振りだ。今ここでお前を灰にしたい位だ」
「おーっ、随分物騒な事を言うじゃないか。ま、前から薄々気付いていたけどな。魔界の中で一二を争う位の美貌をもつお前が上手い話を断り続けて、城内に引き籠もって、どうすれば再起するかを調べて……。俺が仕方なく誘惑しても冷徹な態度をして」
メフィストがべらべらと喋っていると、ストラスが涙目で睨みつけてきて、強く握った拳を顔面に向けてきた。しかし、そんなに威力はなく、メフィストはストラスの拳を手で受け止めた。
「はぁ、お前は本当に繊細だよな。早く言ってくれれば、俺がお前のソレをバキバキに元気にしてあげたんだけどな」
「冗談はよしてくれ。お前とそんな事をする位なら、お前もろとも領地を全て消し去る」
「いくら端正な顔立ちのお前でも、俺の方こそ願い下げたいぜ」
二人は最後に残ったいちご飴を食べ始めた。噛むと、水の表面が薄く凍りついたような氷の感触がし、甘い。更に噛み進めると苺の果肉の柔らかさに、口の中に甘酸っぱい果汁が思いのほか溢れ出た。
ストラスも食事を堪能したみたいで、機嫌がいつもより半分上がっていた。
「だいぶ話が逸れたが、魅力的な土産をありがとう」
「いや、土産はもう一つあるぜ」
「なんだ、これだけではないのか?」
「そうだぜ。茶屋の予約をしたんだ」
「お前も物好きだな。ハマっても知らないぞ」
「いやいや、お前の分の予約もしてあるから、来週一緒に行くぞ」
ストラスはメフィストの発言に驚き、開いた口が塞がらなかった。
「……おい、待て。何故、私がそのような場所に行かねばならん? お前一人で行けば良いじゃないか」
「因みに、予約の取り消しは出来ねぇからな。一度しか無い人生なんだし、男の味も分かってた方が良いだろ? もしかしたら、勃つかもしんねぇじゃん?」
メフィストは満面の笑みで困惑するストラスをじっと見つめ、無言の圧力を加えた。ストラスは返す言葉もなく、頭を抱え、深いため息をついた。
「お前な……」
「だったら、お前にさっきやった本を返してもらおうかな? 返したくないなら、来週付き合え」
「ぐっ! ……卑怯だぞ、お前」
「さぁね。ほんじゃ、来週迎えに来るから、楽しみに」
「おいっ! ま、待て!」
メフィストはクスクスと笑い、ストラスに手を振り、城を後にした。
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