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「ほら、早く手を繋げ。……なんだ? 手を繋ぐには一回毎に別途料金がかかるのか?」 「――か、かかりません! すぐ勘定するのは止めてください! お、お手を失礼します!」 「ん? 何故、怒っている?」 「怒ってなどいません!」  苺がストラスの手を握ると、ストラスは苺の手を握り返した。二人は手を繋いだまま、苺が勧める料理屋へ向かった。  暫くすると、茶屋に似た和式の一軒家に着いた。玄関を開けると、割烹着を着た獣人が奥から現れた。 「いらっしゃいませ。――って、苺ちゃん! どうしたの?」 「ラニア君、こんにちは。今日はこちらのお客様に、ここの料理を食べて頂きたくて来ました」 「セーレ! 苺ちゃんがお客様を連れて来てくれたよ!」  ラニアは厨房と思わしき奥の方に向かって、声をかけた。そうすると、ブツブツと文句を言いながら、奥から姿を現した。セーレと呼ばれる人物はストラスを見るなり、とてつもなく嫌そうな顔をした。 「なんだ、セーレじゃないか。ここで何をしている?」 「げっ。……な、なんでお前がいんだよ」 「いては悪いか?」  気まずい雰囲気の中、ラニアが雰囲気を察し、ストラスと苺をカウンター席に案内した。セーレは深いため息をつき、厨房へ戻っていった。苺はその様子を見るなり、ストラスに質問してきた。 「ストラス様はセーレ様とお知り合いなのですか?」 「あぁ。セーレは旧友だ。会うのはいつ振りだろうか?」 「――はぁ!? 誰が旧友だ! お前は俺を茶化しに来たのか?」  苺がストラスから話を聞いていると、厨房の奥からセーレの怒鳴り声が聞こえてきた。ラニアは苦笑いしながら、二人に水を提供した。 「すみません。お客様の前なのに、あんな態度とっちゃって……」 「ううん、大丈夫。今日のオススメって何かな?」 「今日は肉野菜炒め定食かな?」 「ストラス様は何になさいますか?」 「……そうだな。その、肉野菜炒め定食とやらを注文しようか。ところで、この肉はどの生物のどの部位の肉か?」 「えっーと……」  ストラスがラニアへ質問すると、ラニアは困った顔をし、目を泳がせた。それを察したのか、セーレが再び厨房から怒鳴り声を上げた。 「普通の肉だよ! お前のだけ肉抜きにするぞ! ストラスは余計な事を喋るな! ラニア、お前も手伝え」 「はぁい! 今行きます! ――とりあえず、肉野菜炒め定食二人前でいいかな?」 「うん、それでお願いします」  ストラスはセーレに怒鳴られた理由が分からず、顎に手を当て、首を傾げた。ラニアと苺は二人のやりとりを見て、お互いに顔を見合わせ、苦笑いしていた。そして、ラニアはセーレの手伝いで厨房へ行った。  ストラスは出された水を一口飲むと、カウンター越しから厨房にいる二人をじっと見つめた。 「二人は随分と仲が良いのだな」 「えっ? あぁ、そうですね。口数は少ないですけど、おしどり夫婦で有名ですから」 「……? おしどり夫婦? セーレもラニアも男だが? どちらかと言うと、セーレの方が女に見えるが――」 「誰が女じゃ! それを言うなら、美少年と言え!」  二人が話していると、再び厨房からセーレの苛立った声が聞こえた。苺は苦笑いし、ストラスに事情を説明してくれた。 「セーレさんはこの天空都市の創設に携わった方なんですよ。このような素敵な街並みになったのも、セーレさんの『モノをいともたやすく一瞬で運ぶ』能力のお陰なんですよ」 「なるほど。だから、街並みがとても洗練されていて、空中に浮いているにも関わらず、下界となんら変わりないのか。……ところで、何故、セーレはラニアと出会ったんだ? 獣人族と魔族はそもそも接点が――」 「はい! 肉野菜炒め定食出来ましたよ!」  二人の話を遮るように、ラニアが肉野菜炒め定食をテーブルに運んできた。 「わぁっ、今日も美味しそう! ストラス様、温かいうちに食べましょう!」 「あっ、あぁ……。食べるとするか」  二人は会話を楽しみながら、セーレが作った定食に舌鼓を打った。そして、二人はラニア達に別れを告げると、苺が行きたいと言っていたガラス細工の店へ行った。

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